第6話

文字数 1,293文字

 受話器を置いて、めんどくさくてたまらない気持ちを全部ため息として吐き出す。
「また、人を殺しにいくの?」
「まあな」
「どうして?」
「どうして、だろうな」
 自分でも、本当に不思議だよ。
 部屋の入り口横の隠し扉を開ける。後は構えもクソもない。グリップをつかんで、装填して、安全装置を外して、廊下の向こうに向けて、引き金を引き絞るだけ。この街ではありふれた型の古い回転弾倉式けん銃。自動式のような手入れの手間が不要で、撃てる状態で長期保管可能。大口径であるがゆえにとりあえず、体のどこかに当たれば無力化できる、護身用の携行から自宅まで使えるので、非常に便利ではある。
 しかし火薬が良くも悪くも上等なものではないので、硝煙が鼻の奥を焼くような、刃物で突き刺すような痛みが走る。目も染みる。
 薄い合板のドアを木端に変え、大口径弾丸はドアの向こうの誰かさんをハチの巣に変える。
「きゃああああ!」
 ソファに座っているであろう少女は悲鳴を上げる。構わず廊下の向こうに残りの弾丸をすべて撃ち込む。6発撃ち切り、速やかに銃身を取り外し、弾倉を取り換える。
「逃げるぞ」
 隠し扉の中から鞄をひとつひっつかんで振り向いた。
「え、え?」
 3歩で飛ぶように走りテーブルへ。ソファとテーブルの隙間に挟まっていた彼女を立たせてやり、コートを羽織って、カバンを背負う。まだ怒声が聞こえたので、玄関へ向けて牽制を加えておく。
「死にたくはないだろう? ここにいても死ぬだけだ」
 軽く放心状態の彼女の腕を掴んで隠し通路へ。
 さて逃げるか。
 いや、逃げられないか。
 とりあえず、車に乗るか。
 隠し通路から裏の非常階段口へ抜け、転がり出るように建物を出る。
 細く暗い通路を抜け、尖塔の裏へ出る。
「絶対に離れるなよ。この道は確率が適当だから、離れると二度と帰れなくなる」
「え? ええ?」
 困惑する彼女に言うだけ言って、俺のコートの腰紐をしっかり握らせた。
 車を止めてある通路まで走り切ると、ラッキーだな。ナ・イの手下はまだ来ていない。
「いたぞ! こっちだ!」
 しかし薄暗い霧のかかった裏路地からは怒声チックな誰かの叫び声が聞こえた。
 そこに向けて点射を加えつつさっさと駐車場へ向かう。弾切れになったけん銃は、通りの向こうの誰かに当たる事を祈って、思いっきり投げた。
「やっぱり! 殺すんだ!」
「殺すさ。でなけりゃ殺されちまうからな!」
「なんで」
 言葉を遮って申し訳ないが、すぐそこに殺し屋がいた。俺と同じような、名前の無い殺し屋。ナ・イに雇われたんだろう。
 俺達は会話もない。カバンから適当に一丁引っ張り出して、そのまま安全装置を外して乱暴に引き金を引き切った。短機関銃の連射を浴びせてから、全力で走った。
 相手と俺との差は殆どなかった。唯一違ったとしたら、俺にも彼女にも弾は当たらなかった。相手には弾が当たった。
 バットを振るう様に乱雑な、本当の乱射だった。弾てのは、本当によく当たるし全く当たらんもんだ。
「なんでだろうな」
 こっちも聞きたいさ。
 彼女を車に押し込め、自分も運転席へ。エンジンをかけるとそのまますっ飛ぶように車を出した。
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