第7話

文字数 1,669文字

 さて”表通り”は少しだけにぎやかだ。
 武装僧侶が町中を駆けずり回っている。
 裏通りを使って何とか逃げ回っていたが、どうにももう切り抜けられないな。
 最近裏通りにミイラが増えたと思ったら、ナ・イの野郎だ。やつは金に物言わせて、裏通りの探索をしてやがったんだな。
 面倒だが、仕方ないか。
 ナ・イの教会すぐ裏に車を停めて降りた。
「どこに、いくのよ」
 顔の青い彼女。
「話を付けるのさ」
 言って外に出ると、彼女も一緒に降りてきた。
 中にいろと言おうと思ったが、こんな所に独りで放置するくらいなら、後ろを歩かせた方がまだましか。
「まあ、なんだ。後ろにいろよ」
 彼女の返事は聞かず、歩き出す。
 カバンからありったけの予備の弾倉。手持ちは短機関銃と、いつもの自動けん銃だけだ。
 このふたつの装備は、この街に来る前、俺の前々職から使う軍用銃だ。それを構える。
 教会の正面扉を蹴り開けると、今日は暇そうな浮浪者は誰もいなかった。代わりに説法台にいつもの飲んだくれた僧侶が、珍しく素面で立っている。
「よう、名探偵」
「時は金だぜ。そこをどきな」
 いつも飲んだくれてた僧侶達の手には、それぞれ手に短機関銃一世代前の軍用品だ。プレス加工で作られた、小口径でばねと反動の力だけで動く粗悪品だ。それでも、この街では十二分な戦力である。というかこの世界では短機関銃は最新式の兵器であり、備え付けの機関砲を除けば連射ができるというだけで絶大なアドバンテージである。
 そして相手と俺は両者共にそれを持っている。
 ただ、違うのは、こっちは構えてて、向こうは下ろしている所。
「それは、どうだかな。神父ナ・イは」
「わかった。どけ」
 横凪に一連射。それで仕舞い。
 教会の奥に押し入り、短機関銃を肩掛け帯で下げる。代わりに拳銃を抜いた。
 隠し扉へ向け、右の拳銃を弾倉分撃ちまくる。
 弾倉を取り替えながら、ボロボロのドアを蹴破る。元人間が三人倒れてた。
「くそ。チクショウ……! この、裏切り者が……ッ!」
「裏切り、か?」
 まだ生きていたのか。驚いた。
 とりあえずとどめを刺して、階段へ。後ろで彼女が声のない悲鳴を上げたが、仕方ない。
 階段を登りきり、最後のドアだ。
 力任せに一気に開ける。視界に飛び込んできた何かと、入り口の脇に向け、引き金を引く。
 薬莢が転がる音と、銃弾の残響が耳に痛いが、部屋は静かになった。
 そして誰もいなくなった部屋の中で、やつは悠々とコーヒーを飲んでいた。
「やあ、名探偵くん」
「よう、ナ・イ」
「相変わらず、ノックをしないやつだ」
「必要ないだろう」
 俺の言葉にか、ナ・イは鼻で笑った。
「で、どうするかね?」
「どう、とは?」
「茶番を続けるか、否か?」
「茶番? ふん。茶番か」
 一瞬この男に一発くれてやろうかと思ったが、それは利口な手段ではない。止めておく。
「現状はこうだ。乱射事件で、民主派と厳格派の幹部は死んだ。新たに立ったのは死んだはずの民主派の幹部の娘だ」
「何を……。そうか、テメェ」
「しかし神官派に追われた彼女は私立探偵に助けられ、なんとか命を繋ぐ。そして探偵は交渉の席を設け、私と密談をする。そこへ厳格派が乗り込んできて、我が組織員を殺傷」
「下衆だな」
 とんだ下衆野郎だ。
「どうも。またしても生き長らえた彼女」
「もう結構。で、あんたの企みは成功か?」
「勿論だとも。これで神官派、厳格派、民主派、それぞれに高く深い溝ができた。共闘も何もかもがこれで白紙に戻る」
 これがそもそもの目論みだ。この男は最初から全て駒にして、勝手にこっちの命をチップにして賭けを楽しんでいたのだ。
「ああ、でも、そうだな。君が彼女を助けたのは、少し予想外だったよ」
「そうかい。ロクデナシめ」
「だが、これで君らは助かる。それ以外、なにが必要なんだ?」
 笑う男。踵を返して、部屋を出る。彼女は律儀に俺の後ろに回り込んだ。
「お前の正体を知っているからな」
 一言だけ、残しておこう。奴の反応は、いつもの薄気味悪い微笑だった。
「そうかね、タイタス・クロウくん」
 くそったれ。
 教会を後にした。
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