第X2話 まず貝より始めよ

文字数 645文字

「先輩、見てくださいよこれ~」
 キョン子が発泡スチロールを抱えて入って来た。

「その箱はもしや」
 察しは付く。

「ハイ、北伊勢名物の蛤っスよ~」
 エンペラー総支配人様の差し入れらしい。

「ありがたやありがたや。こんな高いものを」
 思わず手を合わせてしまう。

「すまし汁が好きですが、酒蒸しもいいっスね」
 涎が出るなあ。

「ボンゴレビアンコや蛤フライもいいぞ」
「ああ罪なことを」
 他都市の高級料理店でも、わざわざ北伊勢の蛤を使うことがあるほどだ。

「でも先輩。蛤の他にシジミも有名ですが、貝殻が大量に廃棄されますよね」
 縄文時代の貝塚がいまだに残っているほどだ。

「ホタテや牡蠣の貝殻も問題になっていたが、色々有効活用が出来るんだぜ」
 金を払って処分していたものが、金を生むようになるんだからな。これこそ錬金術だぜ。
「へえ。調べると洗剤になったり防虫剤になったり、大したもんですね」
「炭酸カルシウムの塊だからコンクリートに代わる建築資材としても鋭意研究中だぞ」
 シェルターにもなるだろう。

「昔からある工芸品も良いですよね。色とりどりに絵付けしたり。お金の代わりにもなってたくらいですから」
 貝貨(ばいか)とも呼ぶ。

「螺鈿工芸は途絶えて欲しくないしな。工具の柄の部分にぴかぴかの貝が埋まってたら少々高くても買い手が付くぞ」
 俺が欲しいくらいだ。

「100均や日常品はプラスチックで囲まれていますが、こういう基本材料がエコロジーなものに代わると丁寧な暮らしに繋がりますね~」
 発砲クーラーBOXが、ガサゴソと音を立てた。






 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【東洋】あずまひろし。北伊勢市内のパチンコ店・エンペラーにて勤務。ろくに学校も出ていないが、父親のスパルタ教育により、体だけは頑丈。後輩・キョン子に、なぜかなつかれている。

【西本願寺京子】京都の名門・西本願寺家の長女。学年的にはメシヤたちと同じである。躾の厳しい実家を飛び出し、北伊勢市内のパチンコ店・エンペラーで勤務する。職場の先輩、東洋《あずまひろし》に、キョン子と呼ばれる。どうやらヒロシのことは以前から知っているようだが・・・。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み