第22湯 交配の理由

文字数 2,206文字

 ルターの中に疑問がなかった訳ではない。

《断末の矢》を使える唯一の存在が――ハイジで在ったことだ。

(いやっ、まさか! ぅ、っそだろぉう!?)

 ハイジの赤く染まった肌が褐色の肌に移り変わっていく。金髪で下の緑に濃い髪も真っ白な銀に輝く。

 王冠のような棘の聖痕が額に浮かび上がる。

「《ふざけるな》」

 出会ってから笑った表情を見せたことのないハイジの唇が、へらっと口端が吊り上がった。
 真顔と大きく見開いた三白眼も笑みの形に変わる。
 この顔にルターは見覚えがある。

「《ハイジの身体に》」

 不正解であって欲しい。
 だが、現実は無常だ。

 呪われた武器を自在に扱う悪魔は上級階級。
 知る名前は――ラダダダン。

「《魔人のナニを突っ込むとは何事だ。恥を知れ》」

 ハイジの声ではない、幼い声がルターの行いを責めた。

「ぁ、兄貴ぃ」

 何億ぶりの直接的な会話が他種属との交配中とは性質が悪い。ハイジであってハイジではなくなってしまった身体。中に挿入したままという気まずさに、ルターも「この、……状況はどうにかならないのかな?」と口調も低く聞く。

「《まずは腐れた茎を中から出すのが先じゃないのか、おい、動かすんじゃない。ふざけるな》」
「む、りぃかなぁ」
「《いいか。ラダダダンはハイジと魂を共有しているから、大事に至っていないだけで、普通の人間なんかに挿入して見ろ、どうなると思う》」
「っちょ、……振動が、ぅうう」
「《ラダダダンの質問に応えろ》」

 ふぅふぅ、と気持ちよさにルターも息を整える。

「そ、りゃあ。人間に魔人の茎を入れたら、人間はもたない、んじゃないかな。でも、ハイジの奴には免疫というか、同性の人間同士での経験もあるし、なんら問題は、ないかな、と……は、ははは」

 ルターも分かってはいた。しかし、どこか不思議とハイジなら大丈夫という、言い得ない安心感があって、彼からも求められたことに応えてしまった。幼少期からの親からの性的虐待の上書きも、彼の身体なら耐えられそうだと――確信が在った。

 ルターから見たハイジに対する身勝手なイメージ。
 何もかもを受け入れる性格であるハイジは――拒否れないだろうと。

「《父みたいに性欲の塊。最低の極みだ》」
「別に、僕だって、誰でもいいって訳なんかじゃ、……ないですよ」
「《人間の女なら誰でも突っ込むヤツが何を言っても白けて聞こえるけどな。ラダダダンが能力をハイジに注いでいるから身体が耐えられているんだ》」
「……ワイズとのときも、です、か?」
「《人間同士なら勝手にと思う。ラダダダンは手を貸さないし、出す真似もしない》」

 きっぱりと告げるラダダダンにルターも挿入れっぱなしと、冷や汗と気持ちよさに、どうにもならない状況に陥っている。このまま、いつ終わるのか分からない会話をし続けるのは生き地獄だ。

「《だが。魔人であるお前が、ハイジの身体を汚した以上は――腹正しい。このまま茎を食べて、再生に時間もかかるようにしてもいいんだが。どうしたものだろうな》」
「やめてくれよ、なくなったら。魔人としても致命傷じゃないか」
「《下半身で活きる猿が。父と同じでは、碌な目に遭わないだろうな》」

 碌な目に遭わない。
 それは、今のこの状況ではないのか。

「《魔人との交配は人間に負担が大きすぎる。気持ちがいいに流されて壊れるケースもあるにはあることを耳にしたことはないのか。ハイジにそうされては――契約上、ラダダダンも困る。手も茎も引け》」

 ラダダダンの言葉にルターも歯を噛み締めた。

「ハイジは僕のご主人様だ。最後の願いを言わない限りは、離れることは有り得ませんよ。兄貴もご存知でしょう。ですから、協力をお願いします」

 真剣な弟の表情にラダダダンも薄目を開ける。

「《約束をしてもらおうじゃないか》」
「はい」
「《ハイジを泣かせるな》」
「それは、約束は……ムリかなぁ」
「《ハイジを困らせるな》」
「それも無理、かなぁ。僕の方がむしろあいつから難題を言われるし、叶える気もないですからね」
「《ハイジを孕ませろ》」

 ガツンとルターも息を飲み込んだ。
 思いもしなかったラダダダンからの言葉に「っそ、それは。どうしてなんですか?」と感情を押し殺した口調で聞く。

「《ダリ王とダダリ。二人との契約に多種属との交配が必要だからな。つまりは血だ。王国の存続させることが理由と言えば、いいのか》」

 ハイジに自身との子どもを――産ませる。
 ルターも悩む。明日から長旅だ。

「《今日が初めての異種属との交配だ。今回は苗床をつくる程度にしておくか。魔人の精液は濃厚だ。人間であるハイジも孕むのもすぐに違いない。しかしだ。ハイジにとっては高齢出産となる。難産になりやすい上に、子どもにも影響が起こり得る。悠長にゆっくりと仕込めとは言わない、相性が悪く、孕ませないようならお前を殺して、他の種馬をラダダダンが見つけよう。いいか、時間はないからな》」

 ラダダダンの焦りの言葉に「わ、かったよ」とルターも短く応えると、褐色の肌が、真っ白くも赤に染まる肌に戻った。

「は、ハイジ?」
「ぅん♡ なんだぁ♡」
「! 動くぞ!」
「ぁ、あぁああ♡♡」

 孕ませる。という交配の行為。
 
「中に出すぞ!」
「出してくれ♡ 中にぃ♡♡ 孕ませてくれぇ♡♡」
「!?」

 急速に動いていた腰が止まり、ハイジの中に精液を吐き出す。
 ルターの目の前にあるハイジの蕩けた表情に――笑みを浮かべた。
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