第14湯 《門》の先のブランコ診療所④ 父と子の距離
文字数 3,052文字
「サクラは聞きました。ハイジさんは30歳まで父親であるワイズさんから性的虐待を受けていました。幼いころから厳しいワイズさからの教育もあって拒否をすることも、言い返すことも叶わずに受け入れざるを得ない環境だったからです。10代前からワイズさんの仕事に連れ回され学校にも行かされず、思春期になってからは暴力でねじ伏せられ、言い返す力も反抗すら奪われ従ったそうです。なので見た目は従順な息子で評判はよくワイズさんは羨ましがられ気を良くして優しくされたそうです。反抗しなければいいと諦めたのは20代の頃と聞きました。そして、ワイズさんの仕事を手伝い資格をとり助手として働いたお金は全てワイズさんの管理下に置かれて使えなかった。ワイズさんもハイジさんが逃げられない環境を作っていた、というのが正しいのかも」
ヒマワリの部屋に集まりサクラから、彼女が知るハイジの家庭事情を聞いた。
聞いた2人の表情は何とも言えない顔色を浮かべている。先に口を開いたのは彼だ。
「嫌なら全力で逃げればいいだけじゃないのか? ハイジの奴は馬鹿だな」
ルターが大きく肩で息を吐いて呆れた口調で言い放った。
「子どもの頃からの虐待という教育をされれば、……拒否なんか出来ないでしょう。何をされるか分かっているんですよ。身体が。精神 が」
私服に着替えて煙草に火を点けたヒマワリが煙を吐いた。
「しかし。よくもそんなに愛した子どもを30代になって手元はら離したもんだ。何かあったのか? それのこともハイジからサクラちゃんは聞いているのかな?」
「はい。えぇと、……たたたた、勃たたたたなくなったからららです」
両手で顔を覆い隠してサクラが答えた。
恥じらうサクラの態度に(きゃわわわわ!)とヒマワリは内心で雄叫びを上げる。
「そりゃあ、70代か80代の老人だもんなぁ。魔人の僕のような強靭な肉体なんかじゃなきゃすっぽりとヤれなくなるよな。ヤり続ける老人も世の中にはいるのはいるだろうけど。それは少数派ってもんだろう。それでハイジを抱けなくなったワイズは、他にも何かあっただろけど、30代のハイジを手放したってことか。一体。どうしてなんだ?」
サクラは顔を横に振った。そこまでは知らないと。
「でも。よくもサクラさんにそこまで家庭事情を恥じることなく彼も言いましたね。普通ならそういう話しは口が裂けても他言はしないものでしょう。聞いた相手もいい気持ちになんかならない胸糞の悪い話しなんですから」
ヒマワリは灰皿に煙草を置き、グラスに注いだ酒を飲み干した。
ルターも「そりゃそうだよ」と飲んだ。
「お酒を呑んだハイジさんが饒舌にお話しをしてくださったんです。出会った日のベッドの中で」
サクラの目に涙が浮かび頬につたい落ちていく。
泣いてしまった彼女にヒマワリが自身のハンカチを手渡した。受け取ったハンカチで目許を拭い彼女は話し続ける。
「その日は寝るまで家庭の事情と今日の出来事を話されていました。でもサクラはずっと信じていなかったんです。今も信じていません、信じたくなんかないんです。あの人が父親にされたことを強いられたことを。でも。嫌と口に出来ない、断れない。あの人の性格は――子どものようなところもあって、可哀想に見えてしまって。そこを突いた、アンヌ様が許せません……酷いと思うんです」
サクラが大泣きをし出してしまう。
「まぁ。親に子どものころから押し殺される躾をされたら誰だって歪むよな。30年近い束縛なんか、もう呪いだろう。よくも、ワクチン接種になんか行けたもんだよ。あの馬鹿」
眉間にしわを寄せたルターも大きくため息を吐いた。
「空っぽな奴が独り立ちしたから、ああも結婚と離婚を繰り返して、子どもを作って。金にだらしなくなるのでしょうか。親からの解放からの結果しても考えたら分かるでしょう」
ヒマワリはハイジがアンヌに金の無心してくれるように土下座をする様子を何度と聞き、目にしてきている。その光景が瞼から消えたことがない。
「酒に溺れて失敗して、何も学ばないというのはアレですね」
「お金はっ、サクラと子どもたちのためで! ハイジさん自身が何かに使っているところなんか見たことがないです! お酒を呑んだことにも事情があったんです! 言わないだけなんです! あの人はっ、ハイジさんわああぁ!」
さらに泣き喚くサクラにルターはめんどくさそうに表情を歪めたが、
「でも。あいつは幸せだったな。サクラちゃんと出会えたんだから。なんだってサクラちゃんと結婚しなかったんだって気になるよ。こんなに胸も大きくて若くて可愛いのにさぁ」
へらっと表情を崩したルターはサクラにほくそくんだ。彼女の涙も止まった。
「今ではこう、……女性の身体ですが。会ったときは子どもでしたから。今もハイジさんにとったらサクラなんか子どもに過ぎないんですよ。サクラなんか対象じゃないんです、恋愛の」
強張った顔でサクラも気丈に笑う。
「でも。サクラは待ちます。サクラはハイジさんが好きです」
サクラの言葉に衝撃を受けたのはヒマワリだ。
沈んでいくヒマワリの周りの空気にルターも察し、
「まぁ、しばらくハイジは僕と旅に出る訳だし。サクラちゃんも、もっと周りを見ていい男の人を見つけた方が幸せなんじゃないんかな? な? ヒマワリくん」
彼に話しを振るのだが聞こえていないのか返事もない。
舌打ちをしてルターはサクラに言う。
「旅では手紙を書くようにあの馬鹿にも言っておくよ。子どもたちを頼んだよ」
「はい。はいぃいいっ」
サクラは酒を一気に煽り飲んだ。
そして、想像通りに寝落ちする様子に「で? どうする?」とヒマワリにルターは聞く。
「ガンバリマス」
そうじゃなく。寝落ちしたサクラのことなのだが。
伝わらない意思の疎通に「面白くない奴はモテないからな」ルターはヒマワリに瀕死する言葉の矢を射抜いた。
「それにして。あの馬鹿は何時くらいに帰ってくるのやらだな」
ハイジの事情を聞いたルターも実の父親で変態医者が何かをして帰って来られないんじゃないのとか心配する。旅にはハイジは必要不可欠。チェイスには時間がない。
エルフと会うためだったらなんでもしてやる。
しかし、ハイジにはルターの気持ちも、チェイスの気持ち理解はない。
願い事はあと一つだけ。
たったの一つだけ。
ご主人様はハイジ=ブランコに書き換えられた。上書きをしてしまった。
「チェイス。お前たちはひょっとしたら人選を早まったのかもな」
◆
「ここが。ハイジの部屋か」
ハイジでありダリオの部屋であった屋根裏部屋の中を、依然とダリオが見て回っていた。
10年以上も住んでいないはずの部屋が真新しい。まるで掃除をこまめにされ手入れをされているかのようだ。埃も蜘蛛の巣すらない。
「じーちゃんが掃除を、……ありえそうだけど」
ハイジのためにか。それとも死んでしまった妻のためか。
何故。ダリオに屋根裏部屋を見せ、中に案内をしたのか。
惚けていたダリオの耳に何かが大きく揺れる音が聞えた。
「な、んだろう?」
辺りを見渡して、揺れ動く先を見た。
だが。どこも動いている気配はない。
ドぉおおんンんん!
「!?」
突然。クローゼットの上から何かが落ちた。
恐る恐るとダリオが近寄る。
「あれ? 何もない」
確かに落ちたと見えた先には何もない。
『クローゼットを開けてください。中の引き出しの一番下の引き出しを抜いて。するとそこに隠し扉が出てきます。そこを開けてください』
ヒマワリの部屋に集まりサクラから、彼女が知るハイジの家庭事情を聞いた。
聞いた2人の表情は何とも言えない顔色を浮かべている。先に口を開いたのは彼だ。
「嫌なら全力で逃げればいいだけじゃないのか? ハイジの奴は馬鹿だな」
ルターが大きく肩で息を吐いて呆れた口調で言い放った。
「子どもの頃からの虐待という教育をされれば、……拒否なんか出来ないでしょう。何をされるか分かっているんですよ。身体が。
私服に着替えて煙草に火を点けたヒマワリが煙を吐いた。
「しかし。よくもそんなに愛した子どもを30代になって手元はら離したもんだ。何かあったのか? それのこともハイジからサクラちゃんは聞いているのかな?」
「はい。えぇと、……たたたた、勃たたたたなくなったからららです」
両手で顔を覆い隠してサクラが答えた。
恥じらうサクラの態度に(きゃわわわわ!)とヒマワリは内心で雄叫びを上げる。
「そりゃあ、70代か80代の老人だもんなぁ。魔人の僕のような強靭な肉体なんかじゃなきゃすっぽりとヤれなくなるよな。ヤり続ける老人も世の中にはいるのはいるだろうけど。それは少数派ってもんだろう。それでハイジを抱けなくなったワイズは、他にも何かあっただろけど、30代のハイジを手放したってことか。一体。どうしてなんだ?」
サクラは顔を横に振った。そこまでは知らないと。
「でも。よくもサクラさんにそこまで家庭事情を恥じることなく彼も言いましたね。普通ならそういう話しは口が裂けても他言はしないものでしょう。聞いた相手もいい気持ちになんかならない胸糞の悪い話しなんですから」
ヒマワリは灰皿に煙草を置き、グラスに注いだ酒を飲み干した。
ルターも「そりゃそうだよ」と飲んだ。
「お酒を呑んだハイジさんが饒舌にお話しをしてくださったんです。出会った日のベッドの中で」
サクラの目に涙が浮かび頬につたい落ちていく。
泣いてしまった彼女にヒマワリが自身のハンカチを手渡した。受け取ったハンカチで目許を拭い彼女は話し続ける。
「その日は寝るまで家庭の事情と今日の出来事を話されていました。でもサクラはずっと信じていなかったんです。今も信じていません、信じたくなんかないんです。あの人が父親にされたことを強いられたことを。でも。嫌と口に出来ない、断れない。あの人の性格は――子どものようなところもあって、可哀想に見えてしまって。そこを突いた、アンヌ様が許せません……酷いと思うんです」
サクラが大泣きをし出してしまう。
「まぁ。親に子どものころから押し殺される躾をされたら誰だって歪むよな。30年近い束縛なんか、もう呪いだろう。よくも、ワクチン接種になんか行けたもんだよ。あの馬鹿」
眉間にしわを寄せたルターも大きくため息を吐いた。
「空っぽな奴が独り立ちしたから、ああも結婚と離婚を繰り返して、子どもを作って。金にだらしなくなるのでしょうか。親からの解放からの結果しても考えたら分かるでしょう」
ヒマワリはハイジがアンヌに金の無心してくれるように土下座をする様子を何度と聞き、目にしてきている。その光景が瞼から消えたことがない。
「酒に溺れて失敗して、何も学ばないというのはアレですね」
「お金はっ、サクラと子どもたちのためで! ハイジさん自身が何かに使っているところなんか見たことがないです! お酒を呑んだことにも事情があったんです! 言わないだけなんです! あの人はっ、ハイジさんわああぁ!」
さらに泣き喚くサクラにルターはめんどくさそうに表情を歪めたが、
「でも。あいつは幸せだったな。サクラちゃんと出会えたんだから。なんだってサクラちゃんと結婚しなかったんだって気になるよ。こんなに胸も大きくて若くて可愛いのにさぁ」
へらっと表情を崩したルターはサクラにほくそくんだ。彼女の涙も止まった。
「今ではこう、……女性の身体ですが。会ったときは子どもでしたから。今もハイジさんにとったらサクラなんか子どもに過ぎないんですよ。サクラなんか対象じゃないんです、恋愛の」
強張った顔でサクラも気丈に笑う。
「でも。サクラは待ちます。サクラはハイジさんが好きです」
サクラの言葉に衝撃を受けたのはヒマワリだ。
沈んでいくヒマワリの周りの空気にルターも察し、
「まぁ、しばらくハイジは僕と旅に出る訳だし。サクラちゃんも、もっと周りを見ていい男の人を見つけた方が幸せなんじゃないんかな? な? ヒマワリくん」
彼に話しを振るのだが聞こえていないのか返事もない。
舌打ちをしてルターはサクラに言う。
「旅では手紙を書くようにあの馬鹿にも言っておくよ。子どもたちを頼んだよ」
「はい。はいぃいいっ」
サクラは酒を一気に煽り飲んだ。
そして、想像通りに寝落ちする様子に「で? どうする?」とヒマワリにルターは聞く。
「ガンバリマス」
そうじゃなく。寝落ちしたサクラのことなのだが。
伝わらない意思の疎通に「面白くない奴はモテないからな」ルターはヒマワリに瀕死する言葉の矢を射抜いた。
「それにして。あの馬鹿は何時くらいに帰ってくるのやらだな」
ハイジの事情を聞いたルターも実の父親で変態医者が何かをして帰って来られないんじゃないのとか心配する。旅にはハイジは必要不可欠。チェイスには時間がない。
エルフと会うためだったらなんでもしてやる。
しかし、ハイジにはルターの気持ちも、チェイスの気持ち理解はない。
願い事はあと一つだけ。
たったの一つだけ。
ご主人様はハイジ=ブランコに書き換えられた。上書きをしてしまった。
「チェイス。お前たちはひょっとしたら人選を早まったのかもな」
◆
「ここが。ハイジの部屋か」
ハイジでありダリオの部屋であった屋根裏部屋の中を、依然とダリオが見て回っていた。
10年以上も住んでいないはずの部屋が真新しい。まるで掃除をこまめにされ手入れをされているかのようだ。埃も蜘蛛の巣すらない。
「じーちゃんが掃除を、……ありえそうだけど」
ハイジのためにか。それとも死んでしまった妻のためか。
何故。ダリオに屋根裏部屋を見せ、中に案内をしたのか。
惚けていたダリオの耳に何かが大きく揺れる音が聞えた。
「な、んだろう?」
辺りを見渡して、揺れ動く先を見た。
だが。どこも動いている気配はない。
ドぉおおんンんん!
「!?」
突然。クローゼットの上から何かが落ちた。
恐る恐るとダリオが近寄る。
「あれ? 何もない」
確かに落ちたと見えた先には何もない。
『クローゼットを開けてください。中の引き出しの一番下の引き出しを抜いて。するとそこに隠し扉が出てきます。そこを開けてください』