第2話

文字数 1,022文字

俺は動物に去勢とか避妊手術を施すのは嫌いなので、シャーロットも避妊手術はしていない。
だから、彼女にへんな虫がつかないように、絶対に外に出さないようにしていた。
ところが俺が朝、洗濯物を干そうと裏戸を出た隙を狙って、シャーロットが逃げた。

俺は会社に仕事を休む連絡を入れ、近所を探し回った。
怪しまれないように注意しながら、他人の家の塀越しに庭を見回したり、車の下を覗き込んだり。
だが、シャーロットは、どこにもいない。

夕方になってもシャーロットは戻ってこない。
外はすっかり暗くなったが、俺は電気も点けずダイニングテーブルに座っていた。

シャーロット、どこへ行ったんだ。お前がいなければ、俺は生きていけない……。
めしに涙が落ちた。百閒先生の気持ちがよくわかった。
俺はそれから、冥界と下界を行き来してるような気持ちで過ごした。

3日後。
俺が仕事をしていると、庭で、がさがさとなにやら音がする。
シャーロットだった。
「にゃあ」
俺はシャーロットを抱き上げ、彼女の顔を穴の空くまで見つめた。
部屋に入ると、彼女は俺の手をすり抜け、ソファの上で丸くなって寝てしまった。
シャーロットが、戻ってきた……!
よしよし、もう、どこへも行かないでおくれ。

翌日。俺が朝めしを食べていると、インターホンが鳴った。
げっ。太田のばばぁが、映っている。仕方なく、俺はドアを開けた。

「あんた、猫飼ってるでしょ」
「え、はい」

ばばぁは俺の目の前に『女性上位』を突き出した。そこにはでかいゴシック体で、

新型コロナ 猫からヒトに感染する! 東大研究チーム報告書の波紋!

とある。

「この前、あんたの猫が、うちに勝手に上がり込んで、縁側で寝ていたのよ。あんたの家の窓に座ってるのを前に見たことあったから、すぐわかったわ。うちには病気の年寄りがいるのよ。コロナに罹ったら年寄りは悪化しやすいって知ってるでしょ。感染したらどう責任取ってくれるの!!」

俺はシャーロットを猛毒扱いされ、むっとした。

「うちの猫がお宅に勝手に上がり込んだことについては、謝ります。でも、もし感染したとして、うちの猫から感染したなんて、どうやって証明できるんですか。それに感染の可能性からいったら、カラスや鳩だって危ないと思いますけど」

「……とにかく、猫を外に出さないで!!」

俺を睨みつけながら言い捨て、ばばぁは帰っていった。
俺は玄関に塩を撒いた。
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