第3話

文字数 775文字

太田のばばぁは、俺の3軒隣に住んでいる、近所でも有名な嫌われ者だ。
とにかく、神経質で口うるさい。毎日ゴミ置き場で「可燃物」と「不燃物」と「ビニール類」がちゃんと分別通りに入っているかチェックしており、違反している袋があると、袋に書いてある名前の持ち主の家にまで袋を持っていき、入れ直しをさせる。ここに越してきたばかりの頃、俺も何度か入れ直しをさせられた。

それからばばぁは、所有する田畑の「境界線」問題で市の何人かと係争中との噂だ。俺は何度か、市役所の農業委員会の窓口で、ばばぁが職員に食ってかかっているのを目撃したことがある。
とにかく、何らかのトラブルがついてまわるおばはんだ。

病気の老人というのは、ばばぁの旦那さんの父親だろう。
5年ほど前から寝たきりだと聞いたことがある。
ばばぁには子供が2人いるが、どちらも遠方にいて、ばばぁと旦那さんと老人の3人暮らしらしい。

シャーロット、もうあんな家に行くんじゃないぞ。
ばばぁに毒団子食わされるかもしれないからな。

それから3日後。
十分に気を付けていたのに、また、シャーロットが逃げた。
俺は近所を探し回った。俺ははたと思い当たった。
シャーロットはまた、太田のばばぁのところへ行って、ばばぁに捕まり、保健所送りにされたのかもしれない。
俺は太田家の玄関から、見つからないように慎重に中を覗き込んだ。

……ばばぁが、縁側に座って、シャーロットに「ちゅ~る」をやっている。
シャーロットを見つめるばばぁは、今まで見たことない穏やかな顔つきをしている。
「ちゅ~る」を舐め終わると、あろうことかシャーロットは、ばばぁの手に頬っぺたをすりすりし、ばばぁの膝の上にのぼり、丸くなった。

俺は卒倒しかけたが、必死で気を取り直した。
ひとつ深呼吸をして、言った。

「太田さん、こんにちは」
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