「怖い絵」で人間を読む 

文字数 879文字

フェリペ・プロスペロ王子の肖像画についてご存じだろうか。中野京子が『 「怖い絵」で人間を読む』という本の中で、この絵が描かれた背景について解説しているのだが、それを知ると恐怖を覚えるひともいるかもしれない。

スペインの絶頂期に君臨した国王フェリペ二世には悩みがあった。3度の結婚をしたのだが妻や子供を次々となくし、41才にして独身、世継ぎがいなかった。

カトリックの盟主であるハプスブルク家は、カトリック国の王女と結婚しなければならず、候補は限られていた。子供がうめそうな王女がいなくなったフェリペ二世は禁断の手段を使うことになる。父親がフェリペ二世のいとこ、母が実の妹である姪、アナと結婚することにしたのだ。

生まれた子供は次々と夭折するが、ひとりの男子が生き延び、フェリペ三世となる。彼も近親婚によってマルガリータの父を世継ぎとして残した。彼はフェリペ四世となるのだが、45歳で世継ぎなしという、フェリペ二世と同じ境遇に陥り、祖父と同じ禁断の手段を使うことになる。そこで誕生したのがマリガリータ王女、そしてフェリペ・プロスペロ王子だった。宮廷画家ベラスケスが死の前年に彼を描いた肖像画が「フェリペ・プロスペロ王子」である。

王子の髪は金髪で、真っ白な肌をしている。少女の服を着ていて、鈴がぶら下がっている。自分の身体を支えるためなのか、弱々しい右手を椅子の背もたれに乗せている。王子は病弱だったのだ。鈴は魔よけの守りであり、少女の服には魔の目を惑わしたいという宮廷の願いが込められていたが、結局この祈りが叶うことはなくフェリペ王子は絵が描かれた二年後に病没することになる。

スペインハプスブルク家は、フェリペ王子の弟、カルロス王子(カルロス二世)で終わるのだが、これを、静脈が透けて見えるほどの白い肌を誇りとして継承していくために、青い血がみえる人と結婚していった結果の悲劇とみるひともいる。子孫の健康を犠牲にしてまで支配者の独自性を保とうとする狂気にとらわれた人々の悲劇的結末といえるかもしれない。

資料
中野京子. 2010. 「怖い絵」で人間を読む. NHK出版
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み