2次関数の性質を求める徒然なる計算

文字数 1,412文字

 『志学 数学~研究の諸段階 発表の工夫~』という素晴らしい本を読み終わった。数学の研究に関する概略がエッセイ風に述べられたものなのだが、一般人でも読めるように配慮されている。全4章で構成されているのだが、第4章に受験で身につきがちな考え方への言及がある。

勉強は目標のための手段であり、目標(入試合格、或いはその先では学問的成功、就職、・・・)は勝負事のように考える₁。

高等教育での勉強の主要な目的は、技術を身につけること以上に、人類が長い間かけて築き上げてきた文化の価値を感じとり、理解し、それを更に発展させるために少しでも寄与できるように、ということなのに、それが受験技術の習得にすりかえられてしまっていることが問題です₂。

よくわからない事を(他人や参考書にすぐ頼らず)自分で考える、という事は、はじめは仲々つらいが、これこそ精神の自由を獲得する為の唯一の道だと云って過言ではないと思います₃。

 著者は、解法を暗記することも本来の人間の知性を磨くことにはならないと理解しているようであるが、以下、この問題を具体的な入試問題とともに考えてみたい。

a, bを実数とする。整式 f(x) を f(x) =x²+ax+b で定める。2次方程式 f(x) = 0 が異なる2つの正の解をもつための a と b がみたすべき必要十分条件を求めよ₄。

 これは受験数学を経験した人にとっては、おなじみの問題である。つまり、共有された解法があり、それに従えば解答が書けてしまう典型的な問題なのである。たとえば、求める条件は、判別式 D>0 かつ 軸 -a/2>0 かつ f (0) >0 であり・・・などとなるだろう。
 この問題を少しだけ一般化した問題を論じると、たとえば、以下のようになる。

問題
a, b, c∊R, a>0とする。整式 f(x) を f(x) =ax²+bx+c で定める。2次方程式 f(x) = 0 が異なる2つの正の解をもつための a, b, c がみたすべき必要十分条件を求めよ。

グラフの定義
f を X を定義域とする写像とする。 f のグラフとは、以下の集合Gのことである。
G= { ( x, f(x) ) | x∊X }  

略解
G= { ( x, f(x) ) | x∊R } である。 
求める条件は 1かつ2かつ3 となる。
1 頂点のy座標<0⇔ 判別式 D>0
2 頂点のx座標>0⇔ -b/2a>0
  f (x) を微分したとき(f '(x) = 2ax+b )、その値が0になるようなxの値が頂点のx座標
3 f (0) = c >0

 試験を強制される以上、前者のような典型的な解法に従った解き方で処理するのも仕方のないことではあるものの、本来的な知性を磨き、精神の自由を獲得していこうとするなら、後者のように、問題を一般化したり、いろいろな視点で観察してみたりする必要があるように思われる。学校や塾の先生が出す問題、あるいは参考書に()っている問題をそのまま解くだけで、また、その解法を学ぶだけになっている学習方法は、いかにそれが得意になったとしても、学習の性質としては受動的である。


引用
₁ 井原康隆. 2005 . 志学 数学~研究の諸段階 発表の工夫~. シュプリンガー・フェアラーク東京. pp.140-141
₂ ibid.
₃ ibid. p.142
₄ 神戸大・文系数学. 2023
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