モンティ・ホール プロブレム

文字数 4,412文字



マリリン・ボス・サヴァントが、自身が担当するコラム「アスク・マリリン (Ask Marilyn」に寄せられた、以下の問題(Monty Hall problem)に的確に回答したさい、大きな議論が起こったことがある。

ある番組では、次のようなゲームが行われる。ゲームの挑戦者の目の前には3つのドアがあり、1つのドアの後ろには新車がある。他の2つのドアの後ろにはヤギがいて、挑戦者が後ろに新車があるドアを選ぶと、それを景品としてもらえる。司会者であるモンティは、挑戦者があるドアを選択した後、残りのドアのうち後ろにヤギがいるドアを開け、挑戦者にドアを変更するかどうか尋ねる。挑戦者はドアを変更すべきだろうか。

マリリンは、この問題に対し、ドアを変更したほうが新車が後ろにあるドアを当てる確率が2倍になるので変更するのが正解だと回答したのだが、これに対して批判が殺到し、著名な数学者までもが彼女を批判する事態になった。ロバート・サッチス博士は「プロの数学者として、一般大衆の数学的知識の低さを憂慮する。自らの間違いを認める事で現状が改善されます」とまでいったそうである。

批判者はドアを変えても変えなくても、新車が後ろにあるドアを当てられる確率は同じで1/2だと考えたが、マリリンは回答の批判に対する反論の中で、モンティがヤギが後ろにいるドアを開けた後、UFOでやってきた宇宙人に、挑戦者がモンティから得たヒントを知らせずにドアを選択させた場合、新車が後ろにあるドアを当てる確率は等しいと述べている。

さて、今ではいろいろな人がこの問題の解説をしていて、いくつか読んでみたのだが、どうもよくわからないことが多かった。そこで、マリリンの解答に至るまでの過程を、できるだけ数学的に納得できるように考えるという個人的な課題に取り組むことにする。とはいえ、著名な数学者を含む多くの人がマリリンの解答に納得できなかったことを考えると、誤りや誤解が生じたとしても不思議ではないだろう。

以下は、個人的思考記録である。

1. 問題

挑戦者の前に3つのドアがある。ドアの1つには新車があり、残りの2つのドアにはヤギがいて、
挑戦者はドアのうち1つをランダムに選ぶ。次に、司会者モンティが、挑戦者が選んだものとは違うドアのうち後ろにヤギがいるドアをランダムに1つ開け、挑戦者にドアを変更するかどうか尋ねる。挑戦者は最初に選んだドアにするか、もう1つのドアにするか合理的に(新車が後ろにある確率が高いほうのドアを選ぶように)決め、挑戦者が選んだドアの後ろに新車があれば新車がもらえるとする。挑戦者はドアを変更すべきかどうか。

2. 確率の定理

独立試行の確率
2つの試行 S, T は独立とする。試行 S で事象 A が起こり、試行 T で事象 B が起こるという事象を C とすると、P(C)=P(A)×P(B)

乗法定理
P(A∩B)=P(A)×PA(B) ( PA(B)はAのもとでBが起こる条件付確率 )

加法定理
P(A∪B)=P(A)+P(B)−P(A∩B)

3. モンティが選択の変更を尋ねる前の場合分け

挑戦者はAまたはBまたはCのドアを選ぶと考えることができ、Aを選ぶとする。このとき、以下のことが起こりうる。

挑戦者がAを選び、Aの後ろに新車があり、モンティがBを開け、ACのドアが残る。
挑戦者がAを選び、Aの後ろに新車があり、モンティがCを開け、ABのドアが残る。
挑戦者がAを選び、Bの後ろに新車があり、モンティがCを開け、ABのドアが残る。
挑戦者がAを選び、Cの後ろに新車があり、モンティがBを開け、ACのドアが残る。

A(新車)C(ヤギ)のドアが残っている。
A(新車)B(ヤギ)のドアが残っている。
A(ヤギ)B(新車)のドアが残っている。
A(ヤギ)C(新車)のドアが残っている。

4. 起こりうる確率

挑戦者がAを選び、Aの後ろに新車があり、モンティがBを開け、ACのドアが残る確率は
1/3 × 1/3 × 1/2 = 1/9 × 1/2 であり、
挑戦者がAを選び、Aの後ろに新車があり、モンティがCを開け、ABのドアが残る確率は
1/3 × 1/3 × 1/2 = 1/9 × 1/2 であり、
挑戦者がAを選び、Bの後ろに新車があり、モンティがCを開け、ABのドアが残る確率は
1/3 × 1/3 × 1 = 1/9 であり、
挑戦者がAを選び、Cの後ろに新車があり、モンティがBを開け、ACのドアが残る確率は
1/3 × 1/3 × 1 = 1/9 と考えることができる。

5. 挑戦者の選択

挑戦者の前には、ABまたはACのドアがある。ABがある場合を考える。

A(新車)B(ヤギ)のドアが残っている。
A(ヤギ)B(新車)のドアが残っている。

このとき、Aの後ろに新車がある確率は、1/9 × 1/2 であり、Bに新車がある確率は、1/9 であるので、より高い確率で新車を得ようとする挑戦者は、モンティにドアを変更するかどうか尋ねられた時、ドアを変更することになる。ACがある場合も同様である。

また、挑戦者がBやCを選ぶ場合も同じように考えることができる。

6. 宇宙人の選択

挑戦者がドアを選択し、モンティがヤギが後ろにいるドアを開けたとき、UFOから合理的な宇宙人がおりてきて、それまでの事情を知らされずに途中からゲームに参加する場合(2つのドアから1つのドアを選択し、新車が出れば新車を手に入れる)、次のような状況が起こりうる。

A(新車)C(ヤギ)のドアが残っている。
A(新車)B(ヤギ)のドアが残っている。
A(ヤギ)B(新車)のドアが残っている。
A(ヤギ)C(新車)のドアが残っている。

B(新車)C(ヤギ)のドアが残っている。
B(新車)A(ヤギ)のドアが残っている。
B(ヤギ)A(新車)のドアが残っている。
B(ヤギ)C(新車)のドアが残っている。

C(新車)B(ヤギ)のドアが残っている。
C(新車)A(ヤギ)のドアが残っている。
C(ヤギ)A(新車)のドアが残っている。
C(ヤギ)B(新車)のドアが残っている。

宇宙人の前には、ABまたはACまたはBCのドアがある。ABの場合は、次のようになる。

A(新車)B(ヤギ)のドアが残っている。
A(ヤギ)B(新車)のドアが残っている。
B(新車)A(ヤギ)のドアが残っている。
B(ヤギ)A(新車)のドアが残っている。

このとき、Aに新車がある確率 = Bに新車がある確率
= 1/9 × 1/2 + 1/9
= 1/6

このことは、ACまたはBC の場合でも同様である。つまり、宇宙人はどちらのドアを選んでも同じ確率で新車を当てることになる。

7. 一般化

挑戦者の前にn個(n≥3 )のドアがある。ドアの1つの後ろには新車があり、残りのn-1個のドアの後ろにはヤギがいて、挑戦者はドアのうち1つをランダムに選ぶ。次に、司会者モンティが、挑戦者が選んだものとは違うドアのうち後ろにヤギがいるドアをランダムに1つ開け、挑戦者にドアを変更するかどうか尋ねる。挑戦者は最初に選んだドアにするか、もう1つのドアにするか合理的に(新車が後ろにある確率が高いほうのドアを選ぶように)決め、挑戦者が選んだドアの後ろに新車があれば新車がもらえるとする。挑戦者はドアを変更すべきかどうか。

n個のドアに番号をつける。挑戦者が1のドアを選び、モンティがドアを開けたとき、起こりうる状況は以下のとおりである。

1(車) ヤギ   3  4  ・・・・・ n
1(車)  2  ヤギ  4  ・・・・・ n
1(車)  2   3 ヤギ  ・・・・・ n
 ・   ・      ・
 ・   ・      ・
1(車)  2   3  4 ・・n-1 ヤギ

1 2(車) ヤギ   4   5・・・・・ n
1 2(車)  3  ヤギ   5・・・・・ n
1 2(車)  3   4  ヤギ・・・・・ n
 ・   ・      ・
 ・   ・      ・
1 2(車)  3   4  ・・・n-1 ヤギ
           ・
           ・
           ・
1 ヤギ  3  4  ・・・・・ n(車)
1  2 ヤギ  4  ・・・・・ n(車)
1  2  3 ヤギ 5・・・・・ n(車)
 ・   ・      ・
 ・   ・      ・
1 2  3   4 ・・・ ヤギ n(車)

モンティによって、ある番号k(2 ≤ k ≤ n)のドアが開けられたとき、1に新車がある確率は

1/n × 1/n × 1/(n−1)

モンティによって、ある番号kのドアが開けられたとき、j(2 ≤ j ≤ n, j≠k) に新車がある確率は

1/n × 1/n × 1/(n−2)

jに新車がある確率は、1に新車がある確率の (n−1) /(n−2) (n≥3)倍なので、挑戦者はA以外のドアを選んだほうがよいことになるが、n→∞のとき1に収束するので、nが十分大きい場合は、変えても変えなくてもほとんど変わらないといえる。また、このことは、挑戦者が1以外を選んだ場合でも同様である。

次に、以下の問題を考える。

挑戦者の前にn個(n≥3 )のドアがある。ドアの1つの後ろには新車があり、残りのn-1個のドアの後ろにはヤギがいて、挑戦者はドアのうち1つをランダムに選ぶ。次に、司会者モンティが、挑戦者が選んだものとは違うドアのうち後ろにヤギがいるドアをすべて開け、挑戦者にドアを変更するかどうか尋ねる。挑戦者は最初に選んだドアにするか、もう1つのドアにするか合理的に(新車が後ろにある確率が高いほうのドアを選ぶように)決め、挑戦者が選んだドアの後ろに新車があれば新車がもらえるとする。挑戦者はドアを変更すべきかどうか。

n (≥ 3)個のドアに番号をつける。挑戦者が1のドアを選び、モンティがn-2個のドアを開けたとき、起こりうる状況は以下のとおりである。

1(車)2(ヤギ)  1(ヤギ) 2(車)
1(車)3(ヤギ)  1(ヤギ) 3(車)
1(車)4(ヤギ)  1(ヤギ) 4(車)
・          ・
・          ・
1(車)n(ヤギ)  1(ヤギ) n(車)

モンティによって、n-2個のドアが開けられたとき、1とある番号k(2 ≤ k ≤ n)のドアが残っているとする。このとき、1に新車がある確率は、

1/n × 1/n × 1/(n−1)

kに新車がある確率は、

1/n × 1/n

kに新車がある確率は、1に新車がある確率の (n−1) (≥ 2)倍なので、挑戦者はA以外のドアを選んだほうがよいことになる。

結論

以上、自分なりにモンティ・ホールの問題を考えてみたが、モンティが後ろにヤギがいるドアを開けた後、挑戦者と宇宙人とで新車を当てる確率が変わることが興味深く思われる。

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