第9話 力の書

文字数 562文字

「零! 魔術師にみんなの顔を覚えられたわ! だから! これから先はみんなの安全なんてないも同然! 命の危険が……!」
「わかってる!」

 ぼくたちは階段を必死に降りていった。
 古い階段だが、頑丈だ。

 すかさず靖が向きを変えた。

「みんな! あんなわけのわからねえ奴から逃げることなんかねえ! 俺があいつらをぶん殴ってやる!」
「私もよ!」

 靖と弥生が階段で身構えた。
 
 ぼくもここであいつらを倒した方が、この先。身を隠したりもしなくて済むし、寝ているところを襲われたりもしないし、安全だと思った。
 黴臭い古代図書館には、酸素と二酸化炭素しかないはず。空気の破裂系の魔術か、空気摩擦で相手を切り裂く小規模の稲妻を発するしかない。

 あるいは、どこかにいらない本がたくさんあれば、粉々にした後、僅かだが空気中にある静電気などを体内電流で寄せ集めれば、それを発火し、大規模な粉塵爆発もできるはずだ。

「ダメよ! みんな殺されるわ! 相手は……?!」

 白花が叫ぶが、数人の男たちが階段をゆっくりと降りて来た。それぞれ禍々しいといえる歪んだ顔だった。歪み……いや、少し違う。顔が単に歪んでいるのではなくて、彼らの顔には様々な歪んだ模様が浮き出ていた。

「本物の魔術師なのよ!!」

 辺りは外窓の稲光が覆った。
 土砂降りの雨の音が白花の叫びをかき消す。
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