第35話

文字数 886文字

 二人は虚ろな目で、何事かを呟いている。
 まるで、何時間もそうやっているようにも見えた。

「あ! あれは?! 超大型人体誘導の魔術よ!!」
「?!」
「多分、学園の生徒たちや先生たちを全員ここへ呼んでいるんじゃないかしら?!」
 
 奴隷の書を開けた白花が、咄嗟に前に出て癒しの。つまり反対魔術を口ずさんだ。

「うっ?! 頭痛ってーー!」
「え、何?!」
「うぃーー、頭痛いー!!」

 急に弥生たちが頭を抑えて呻いた。
 ぼくは魔術障壁のお蔭で何ともないが?!

 超大型人体誘導? 集団催眠術のようなものか?

 ぼくは生体電流を放出して掌を天にかざそうとした。
 
「う?!」

 だが、ぼくは後ろを向いた。屋上へと通ずる階段から、下からバタバタと大勢の足音が迫り来る。

「零くん! 学園のみんなが屋上へと来てしまうわ! みんなこの魔術によって誘導されているの! このままじゃ……相手の目的はわからないけれど、絶対に何かよくないことが起きるはずよ!」

 大雨の降る屋上で、白花は一人で反対魔術で、虚ろな目をした男女二人の超大型人体誘導の魔術と戦っていた。
 さて、どうする?

 落雷の魔術で二人を撃つか?
 珪素で一時的に石化しようか?

「零くん! 凛に言って! 多分この魔術は聞いたことがあるの。悪魔の書のはずよ。その本を持つ人を探して倒すの! 急いで!」
「わかった!」
 
 ぼくは頷き。
 凛を連れて、階下へと向かった。

 階段を急いで駆け降りると、学園の生徒と教師たちが大勢。いや、全員屋上へとフラフラと上がって来ていた。

 ぼくは生徒や教師たちを掻き分けて進む。

「ナニナニーー?! みんな夢遊病になっちゃったの?! それにしても頭痛いんですけどー!」
「凛! この中で悪魔の書を持つ奴を探してくれ!」
「?」
「必ずいるはずだ! そいつが元凶だ!」
「うん? ううん? あれ? あれれ?」

 凛は目を凝らして、大勢の生徒と教師たちを見つめた。
 だが、実に巧妙な作戦だ。
 生体電流はあの屋上の二人が放出しているから、悪魔の書を持つ奴は何も目立たない。
 誰だかわからないんだ。
 だから、知恵の書を開いた凛じゃないとわからないんだ。
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