第24話

文字数 964文字

 しばらく割れた窓からの大雨の激しい雨音が部屋全体を支配していた。二人とも無言だ。疲れているのだろう。

 ぼくもだが……。
 生体電流はもうかなりの疲労で微量しか放出できない。例え王者の書を開いて高位魔術が使えたとしてもまったく使えない状態になっていた。
「チッ」
 ぼくは舌打ちをした。
 そう、今では戦うことができないんだ。
 
 突然、ギイイィと音と共に学園長室の重厚な扉が開いた。

「父さん!」
「え?! 娘? まだ帰ってない?」

 扉を開けたのは、ダンディーな30代の男性だった。キリッとした意志の強い顎と鋭い目をしたハンサムだ。金髪に近い茶色の毛髪の長身で、英語を話せばそのまま外国人と見間違えられそうな人物。
 学園長の滝川 純一郎だ。
 白花とは苗字が違うが……?

「楓! どうした?」
「あのね。まだ、私たち……戦いの最中なの……外へは出れないの……」 
「?」
「あの魔術師たちよ。マレフィキウム古代図書館の魔術師」
「……そうか……君の代で……ここは危険だな」

 白花と純一郎が互いに真摯に頷いているが、ぼくには危険なのはわかるがさっぱりだ。あの魔術師たちは一体? その時、窓の外の大雨の音が急に全て消えた。

「うん?」

 純一郎が首をかしげる。
 が、外の大勢の魔術師たちの生体電流だろう。が、ここまで肌で感じられた。
 学園長室は生体電流で皆の肌が焼け焦げるかのような高熱が包んだ。と、同時に外から得体の知れない大勢の詠唱が漏れ出した。

「うん。と、……あった!」

 純一郎は終始落ち着いている。
 豪奢な机の上の試験官を一本取り出すと、蓋を開けた。
 
「むん!」

 途端に、純一郎の身体の奥から並々ならぬ生体電流が放出された。学園長室がブンと電気の音が支配し、立っているだけでぼくの身体全体がビリビリと痺れだした。

 純一郎は光の玉を掌から発し、それを窓の外へ投げつけた。

 過激な爆発音と共に、校舎の窓ガラスが全て割れる音が木霊する。凄まじい光が重厚なカーテンをふっ飛ばし射しこんできた。

「な?!」
「皆、伏せて!!」
「キャッ?!」

 ぼくと白花と凛は床に蹲った。
 窓の外は、山のような黒煙と灼熱の高温に覆われた。
 ぼくは何が爆発したのかわからなかった。
 真っ赤な小型の太陽が校舎で破裂したかのように思えた。
 けれども、これが高位魔術の一つ。
 爆炎系の魔法だ。
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