5話

文字数 1,833文字

そんなわけで、見事流れで聖夜に彼女を家に連れ込むことに成功したわけだけど……なんで今日に限って家族全員居ないんだよ……

こんなの間違いがあったって知らないからな。

んーっ、このケーキおいし~! 生クリームが甘くてサイコ~!
そ、それは良かったです
そんな僕の気も知らないでこの人は呑気にケーキ頬張ってるし……警戒心がないのか男として見られてないのかそれとも誘ってるのか。

……いや、ないな。多分ただケーキ食べたいだけだ。


……それにしても、この人は本当に美味しそうにケーキを食べている。

口の横にクリームが付いてしまっているけれど気づかないでばくばく頬張っているし。ホールごと渡したら僕の分など考えずに一人で三分の二は食べている。

先輩は昔から甘いものには目がなくて、学校の帰りに喫茶店やファミレスに寄るとパフェだったりケーキだったり砂糖まみれの甘いものを頼んでいた。

まるで恋しているような目で愛おしそうにパフェを見つめ大切に一口一口を食べ美味しそうに顔ほころばせる。それらに嫉妬してしまうほど。そんな先輩を見るのが好きだった。

当時と変わらない先輩を見ていると懐かしい気持ちが蘇ってくる。

あ、いつの間にか髪にもついている。どうやったら髪にクリームがつくんだ……。

んむ? どうしたの?そんなに見つめてきて……ハッ……もしかして私の顔って変!?
いや、ただ先輩はかわいいなって思って
生クリームが顔にも髪にもついているけど言わないでおいた。その方が面白い。それに、クリームつけている先輩はなんというか間抜けで可愛い。
か、かわいいっ……って、ユウくんにそんなの言われたの初めてなんだけどっ!
言いませんでしたっけ? 僕は常に先輩かわいいって思ってたんですけどね
にょわっ! また言った! この一年で何があったのユウくんっ
ははっ、去年の僕は好きな女の子に可愛いとか好きとかの一言も言えないヘタレだったんですよ
……私がいない間他に好きな人とか彼女とかいなかった、よね?
そんなものいませんよ。僕には先輩だけです、ずっと先輩だけ好きで、この先も先輩以外は考えられません。先輩可愛い、好きです、先輩……大好き
はわっ!そんな恥ずかしい台詞を真顔で言えるなんて……じゃあ、私のどこが一番可愛い?
そうですねえ……先輩の可愛いところは山ほどあって順番とかつけられないんですが、クリームつけてるのに気付かないとこですね。はい鏡
ぎゃーっ、髪にも口にもクリームがついてるっ! 言ってよっ、ユウくんの意地悪っ!
鏡を受け取って自分の顔を見た先輩が大きな声をあげて怒ってくる。

そんな先輩の反応が可愛くて堪らない。


顔を真っ赤にして照れる先輩、嫉妬して妬いている先輩、きもいと虫けらのような目で見てくる先輩、ケーキに夢中な先輩。

今日のどの先輩を切り取っても可愛い、愛しいという気持ちが溢れてくる。

だけど、先輩が存在できるのは今日までで、明日になれば先輩はいなくなる。

その事実が胸を締め付ける。

先輩はなんでもう僕の傍に居てくれないのだろう。


僕は先輩が居なければ何も出来ないクソ野郎で、先輩のいない世界になんて生きている意味がないのに。

そんなことを考えていると永遠先輩は真剣な目で見つめてきた。

ユウくん、……ううん、悠人くん。私のこと、これからもずっと好きでいてね
先輩が僕のことをユウくんではなく悠人くんと呼ぶのはいつも真剣な話をするときだった。突然の名前呼びにドキッとする。先輩のこういうところがずるいと思う。
そんなの、当たり前ですよ。僕は、先輩が永遠に好きだし、先輩を嫌いになるなんてことはないです。
えへ……よかった、安心した。……あのね、お願い。このままずっと私のことをぎゅっと抱きしめていて――……
はい
言われるままに先輩を抱きしめた。

先輩は胸に顔をうずめてきて、すごいかわいいし、いい匂いするし、髪ふわってして柔らかいし……というか、この状況は……これなんてエロゲ……じゃなくて、こんなん理性が耐えられそうにないんだけど。

せ、先輩! 抱きしめるだけなんてそんなの出来そうにないです。先輩に触れてもいいですか?
えっ、えと……うん……じゃなくて、仕方ないなあっ、特別だからね
あはは、なんで急にツンデレなんですか、可愛いなあもう
そんなことを言っておきながら泣きそうになってしまっていた。

先輩と居られる最後の日で、先輩が居なくなる前に先輩を覚えておきたいと思ったから。


そして僕たちは沢山唇を合わせ、飽くことなくお互いを重ね合わせた――

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登場人物紹介

夢島 永遠


ユウの先輩で彼女。

1年前に交通事故に亡くなるが、クリスマスに実態を持って蘇った。

人当たりがよく、周りの人みんなに愛され、人を笑顔にする。

1人でいたユウに近づき、色々な世の中の楽しいことを教える。

好きな食べ物はたい焼き


ユウ


先輩が亡くなってから、心を閉ざす。

先輩がすべてだった。

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