3話

文字数 2,300文字

永遠先輩に連れられて辿りついた先はこの街で一番高台にある公園だった。

この公園は僕たちが学校帰りによく遊んだ公園で、小さな街の全てが見渡せる絶景スポットだった。


長い階段を上った先にある公園で、階段を上らないと辿りつけない場所にあるため昔から人は全然来なかった。

今も僕たち以外は誰もいなく閑散としている。もう空はすっかり夜に染まっている時間で、街を見下ろすとネオンの明かりがきらきらと輝いて綺麗だ。

ここは、ブランコ、ベンチ、砂場、シーソーしかない、設備としては小さな公園だ。しかし規模は小さくなく、面積の半分は大樹が占めている。

ここは……公園?なんでここに……
付き合ってた頃はよく帰り道にここに来て暗くなるまでブランコ漕いでお喋りしたよねー、楽しかったなあ!
そうですね。

ブランコ漕いで、靴も飛ばして……子供と遊んで、楽しかったです。

ここでよくたい焼きも食べましたし、思い出がたくさんあります。

たい焼き……美味しかったなあ。じゅるるる……あうー、あんこの味を思い出すと涎がっ……
永遠先輩、ほんとにたい焼きが好きですね。

たい焼き屋さん、近くにあるので買いましょうか!

わーーーー!ほんと!?きゃーっ、ユウくん大好きーーーーーっ!!
うわっ……先輩!抱きつかれたらその……胸が……当たってますっ!
……嬉しくないの?
嬉しいに決まってます!!!!
なら、いいよね♪ほらほら~~、先輩はお腹が空いたよ~?はやく買ってくる買ってくる~!
はいはい、分かりましたよー。ちゃんと待っててくださいね。
はーーーーーーい!
公園の近くにある馴染みのたい焼き屋さんで2人分のあんこのたい焼きを買って公園に戻る。

すると、永遠先輩は公園の中央に聳え立つ、大樹を見上げていた。


この大樹は古くからある。

この街で、大きな願い事を叶えてくれるという言い伝えがあった。実際その願いが叶った人はいるのだろうか?

そんな話は聞いたことはないけれど過去に願いが叶った人がいるからこそそんな言い伝えが出来たのだろう。何千年も前からこの場所にあるこの大樹、木は大きくずっしりとしていて、近くにいると神秘的なオーラを感じ圧倒される。


永遠先輩は……大樹を見上げて、何を想っているのだろうか。

その横顔は美しくて、儚げで、ずっと見ていたいくらい綺麗だった、声をかけるのを躊躇ってしまうほどに。

永遠先輩……
えっ……あ、ユウくん。おかえりなさい。早かったね。
いえ……たい焼きやさん、近いので。2人分、買ってきたのでブランコに座って、食べましょう。
うん。はむっ……たい焼き、おいしいなあ、1年経っても、ここの味は変わらないね。
そうですね。初めて食べた時から、変わりません。

先輩がいなくなった後1人で食べた時は味気なかったけど、でも、今日は、前と同じ味がします。

えへへ……それは……一緒に、食べてあげたかったな。
その……先輩が今ここにいることと、大樹を見上げていたことは関係あるんですか?
うん……あるよ。私が今ここに居られるのはこの木のおかげなの。この大樹が願いを叶えてくれるんだ。ユウくんもこの街の人間なら言い伝えを知ってるよね。
はい、ばあちゃんからよく聞かされていました。有名ですよね
でも、私は信じてなかったんだけど。信じざるを得なくなった。私は……死ぬ間際に私はこの木に願ったの。

「もう一度ユウくんと会いたいです」って。

ユウくんにもう一度会うまで私は死ぬことが出来そうになかった。この世界から私がいなくなった後のユウくんのことが心残りだったんだ。そしたら、今日私はこの公園に居た。最初は戸惑ったんだけど、どうやら私は今日のこの日だけ生き返ったんだと思ったの。
僕は……泣いてしまいそうになった。


僕も、先輩にもう一度会いたいと思っていた。

あんなお別れは寂しすぎだ。

ちゃんと、この目で、この口で、先輩に感謝を伝えたいし、さよならと言いたかった。

それじゃあ、永遠先輩は僕がよく知る先輩本物なんですね。幻でもなんでもなく……。
うん、そうだよ、私は夢でもなんでもなく、本物の夢島永遠。

ただし、今日のこの日――24日と2時間しかこの世にいることは出来ない、そう言われたの。

それって、今日だけしか生きられなくて、明日になればいなくなるっていうことですか……
うん、残念だけどそうなるかな。私は本来ならここに存在してはいけない人間だから。でも、私はこんな奇跡起こっただけでも幸せだよ
……そうですね、もう一度永遠先輩に会えただけでも幸せです。こんな奇跡本当にあるんですね。では……
僕は大木の前に立ち、両手を合わせ頭を下げ目を閉じた。
? ユウくん何してるの?
この木に永遠先輩の願いを叶えてくれてありがとう、先輩ともう一度合わせてくれてありがとう、最高のクリスマスプレゼントをありがとうございますって感謝してます
そっか。じゃあ私も……
先輩も同じように木を拝んだ。こうして二人で木に感謝して感謝して感謝しまくって、心からの感謝をたくさん伝えた。
……ねえ、ユウくん
なんですか?
一年越しになっちゃったけど、去年ユウくんがやりたかったこと全部しようよ。今が6時――で私が消えちゃうまで半分しかないけど、リミットまで楽しまないかな?
はい、僕もそう考えてました。最後まで、永遠先輩と過ごしたいって
えへへっ、よかった! じゃあ、行こっか
永遠先輩が手を差し出してくれた。僕はその手を取りぎゅっと繋いだ。先輩の手は小さくてすべすべもちもちしていて、温かかった。僕は街中でイチャついていたカップルを思い出し――
きゃっ、あったかぁい
……きもいよユウくん
蔑む視線と本日二度目のきもいを頂いてしまった。だって本当に温かいし……。
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登場人物紹介

夢島 永遠


ユウの先輩で彼女。

1年前に交通事故に亡くなるが、クリスマスに実態を持って蘇った。

人当たりがよく、周りの人みんなに愛され、人を笑顔にする。

1人でいたユウに近づき、色々な世の中の楽しいことを教える。

好きな食べ物はたい焼き


ユウ


先輩が亡くなってから、心を閉ざす。

先輩がすべてだった。

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