第14話 レベル 1

文字数 1,230文字

ガソリン その1

 雨が降りしきる中で、私は泣いて歩いた。
 まさかね……。
 きっと、間違いよね……。
 なのに、父さんの言ったことが頭から離れなかった……。

 私って、バカよね……。
 ほんと、つくづく……。

 さあ、事務所へ戻って書類を束ねて、実家へ帰ろう。
 もうこの町には戻らないつもりだ。

 もう……。
 辞めよう……。
 別の仕事を探そう……。
 
 こんな町なんて、もうどうでもいいんだわ。

 西村さん……。
 
 何故、私にこんな依頼をしたのだ。
 何故なのだろう?
 何故、私に……。

 死んだとされる西村の一人娘は一体?

 西村 研次郎は私の正式な依頼人だった。ゴミ屋敷をどうしても調査してほしいと……。
 今では、買手はいるが、当時はいなかった。
 最初に出会った西村は、やたらと早口で何事も急いで決めてしまうような性格で、落ち着きのない印象だった。

 私は愛車に乗り雨の中を走った。
 雨に濡れた車窓から見えるゴミ屋敷は、どこかシュンと寂れているかのように思えた。
 
 西村さん……何故……。
 そして……私は……。

 この依頼自体に、どうしようもないどす黒い悪意を感じずにはいられなかった。



ガソリン その2

「うっぷ!」

 コールタールの中は、意外にも透明な水が底辺りにあった。結構深いところまで潜ると、扉のある床へとつながっていた。

 今でも気持ち悪い。洋服のベタベタがなくなったけれど、口の中が重く。酷い吐き気を覚えた。

「うげーーー!」

 おじさんも隣で床でもがいている。

「うげっ! ……あ、あれ? おじさん! あれは何?!」
「うん? うっ! あー、気持ち悪い……」

 ぼくの目の前にある灰色で重そうな金属製の扉は、所々に「危険」と書かれた警告テープが貼られ……。そして……。

「レベル1……?」

 そう中央に赤いペンキで書かれた扉だった。

 警告テープをはがして、おじさんが力を入れるとガコンと音と共に扉は開いた。
 中は、真っ暗だった。

 明かりはないかな?
 扉の傍に懐中電灯が三人分ぶら下がっている。

「なんだか、トンネルみたいだ……」
「ああ、こりゃトンネルだな」

 おじさんは懐中電灯で、トンネルの上を照らした。
 複雑なパイプが絡み合っている。

「ここを通るしかないな。徹くん。ほら、レベル2へって書いてある。奥へ行こうよ」

 おじさんが興味を引かれたみたいだ。

「やっぱり、中は安全じゃないみたいだな? 徹くん。ほら、警告っていっぱい書いてある」
「うん?」

 床は土だった。
 そして、両脇は石造りでできているトンネルだ。
 そして、所狭しと警告という字が赤いペンキがぬりたくってあった。

「さあ、先に進もうか」
「どこまで歩くんだろう?」

 トンネル内は、無音だった。
 真っ暗な空間で、おじさんとぼくの呼吸音だけしか聞こえない。

 両脇に続く石造りの壁や足元をおじさんが時々、照らしてくれた。
 ぼくも懐中電灯を持っているけど、使わなかった。

 いざという時のために明かりを取っておくことにしているんだ。

「な、何?!」
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