第15話

文字数 1,376文字

 急に無音だったトンネル内の奥から、風の音が強くなった。ぼくは怖くて耳を塞いだけど……。

 ゴォ―ーーーン!
 ゴォーーーーン!
 ブゥーーーーーーーーン!!

 更に強くなる風の音と共に何か巨大なものが回転する音がした。

 もう、耳を塞いでも無理! 轟音になっていて、ここまで風が吹いてきそう!

「ありゃ、なんだ?」

 トンネルの奥へとおじさんが懐中電灯を照らしている。

「あ!! え?!」
 
 おじさんが叫んで真っ青になった。

「おじさん! あ、あれは工場扇だよ! 父さんと一緒に見たことがある!
 こっちを向いたら大変!!」

「ど、どうする?!」

 おじさんは冷や汗を掻いていた。
 無理もない。
 トンネルの東側を向いている工場扇がこっちに向いたら……。

「後ろは頑丈な扉だ! 一旦戻るか?! このままだと風で叩き潰される!!」

「うん!!」

 冷やっとしたトンネル内で、一瞬。すぐそこの壁についたドアが開いたことに気が付いた。

「あ?! 誰かいるの?!」



ガソリン その3

 ほんと、誰かいるのか……?
 こんなところに……?
 でも、中は無人だった。
 どうやら、貯蔵庫のようだ。

 徹くんが見つけてくれて良かった。
 今でも強風がトンネル内を吹き付けている。
 外へ出ると、危険だ。

 しかし、何を貯蔵しているのやら?

 小部屋の中央にテーブルと椅子が四つ。扉の真向いの壁に貯蔵庫と書いてあった。

「うん? これ……缶詰か?!」

 金属製の壁には、所狭しと缶詰があった。
 牛肉。米。魚。果物と種々雑多な食べ物の缶詰。

「美味しそう!!」
「よし、食べるか!! 徹くん! あのテーブルに並べられるだけ並べよう!!」
「うん!!」

 食べ物は思いの外。たくさんあった。
 二人で食べ尽くそうとしても、まだある。
 一体。何人分かよ。

 でも、腹減っていたから本当良かった。

 さて、これもあれも持って行こう。
 牛肉や米の缶詰ばかり持ったな。
 徹くんは、果物が多いな。
 

レベル1 その4

「里香?! どうしたんだ?!」
 父の声で私は道路の端で立ち止まった。
 すぐそこには辞めた探偵兼土地家屋調査士事務所がある。
 駐車場へ行く矢先だった。
 自転車が一台私の脇を通り過ぎていった。

「ううん。もういいのよ」
「途中で投げ出しちゃいけないよ! 一体どうしたんだ……」
「……」
 私は父。勇の顔を見つめた。
 勇は私の無言の訴えが伝わったのだろう。
 一瞬、丸い顔がこくりと頷こうとした。
 車も一台。道路を通る。
 父は心配そうな顔をしていた。

「いや、駄目だ。途中で投げ出しちゃいけない」
「……ふぅーーー……」
「一体。どうしたんだ?」
「私の正式な依頼人だったの。西村 研次郎さんは……」
「……そうか。なら……なおさらだ。その人はもう死んでいるんだよ」
  
 雨は相変わらず降っていた。
 傘は二人とも差していない。
 私たちのびしょびしょの姿は他の人たちには、どう映るのだろう。

「正式な依頼人だったんだね。西村 研次郎は?」
「……ええ。それは間違いようのない事実よ」

 私は捨てられ雨に濡れた子犬のような気持だった。
 それは大きな存在に見捨てられた気持ちに似ている。
 きっと、子犬もそんな気持ちのはずだ。
 そう、途方もない大きな存在に……。

「本当にご本人? 同姓同名の別人でなく?」
「ええ。超小型カメラを作っているって、言ったの」
「なんてこった!!」
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