第11話

文字数 1,163文字

コールタール その2

「ああ……あれね……」
「そのようだね……」

 畠山 勇は私の父で探偵だった頃の先輩だった。
 今日も私と同じく眠い目を擦って訪れた。

 勇は大の夜型人間で、いつも朝は缶コーヒーを飲んでいた。
 少しだけの悪臭が鼻につく。
 
「またいつもの缶コーヒー……」
「ああ……」

 依頼にあった問題のゴミ屋敷が目の前にあった。
 私たちは、ここで事件の全容を少しでも早く知ろうとしていた。

 ここで……。
 悪夢は始まった……。


「もう二件新たにでたんだよ……」
「これじゃ、都市伝説にもなるわね……」
「ああ……」

 勇は缶コーヒーを何度も片手で振っていた。
 目はまん丸としていて、顔と肩も丸い。体だけは尖ったようなひょろ長い父だった。
 そんな父のよく見かける仕草だ。
 そうすると、コーヒーの味に何か変化が起こるのだろうか?

「ここは事故物件だったし、買手を探すのも一苦労だったろうね。まあ、良い町だから買手も出たようだけど」
「そうね。でも、不可解過ぎない?」
「そうだね」
「もう十件よ」
「うーん……そうだね」

 二件の遺体の写真が、また新しく町にばらまかれたようだ。
 勇は今朝に二件とも遺体が郵便箱に入っていたと言った。
 私の方には事務所の郵便箱には何もなかったはずだ。
 それと、勇が言うには遺体の損傷はやはり酷かったようだ。
 
 この怪事件は一体いつまで続くのだろう?
 そうね……もし、この町の人たちが全員霧の中に消えるかしたら、もう事件は起きないんじゃないかしら?。
 遺体となった人達は、この周辺。つまりは町の人だった。
 何故、どうやって、そして、何のために……。
 疑問は尽きないのだ。

 犯人は本当に人間なのだろうか?
 
「あ、犯人は目星がついてきたんだ。徐々に警察と私たちが黒だと候補している人たちから、除外したり、めどをつけたりしてるんだ」

 勇は意外なことを言った。

「え! ……父さん?……それって……」
「この町の人だったんだ。全員ね……。その人達は、まだ犯人かは定かではないけれどもね」

 缶コーヒーを煽る父。勇の顔は、どことなく青白かった。
 私もそうなのだろう。
 青白い顔をしているはずだった。

 でも、私にはこの仕事は向いてないだろうけれど、時には素晴らしく好転することもあるんだなと思った……。

 事件解決の糸口が父によって見えてきた。
 
「除去法というものの考えをしていくと、私の中では一人の男性が浮かび上がったんだ」

 勇はあっという間に空になった缶コーヒーを道路の脇に捨てた。

「その人は、交換レンズとSLRビューファインダーを備えた超小型電子カメラ製作に長く携わっていた男性で、名前は、えーっと……西村 研次郎だ」

 一瞬、私は父が何を言っているのかと、首をかしげた。
 犯人……?
 西村 研次郎……?
 本当……何のことを言っているのかしら?
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