第24話 

文字数 1,711文字

地下発電所 その4

 ブゥウウウウウウウウ―ン……。

「ひっ! あちっ! あちちちちっーー!」

 白い靴がモウモウと煙を上げだした。
 このままだと、足の裏が火傷する!
 それにしても、熱くて凄い汗を掻く!

「ひーっ、工具箱は確か……?」 
 
 俺は真っ青な顔をして、体中から汗を噴き出していた。
 必死に考えるが、今にも電力がまた更に上がりそうで、緊張して思考がまとまらない。
 広大な地下発電所は、恐らくレベル2の排水溝からは、大量の水が流れ込まないように弁があるはずだ。

 だから、工具箱があるとしたら……。

 レベル2の排水溝の中に今でもあるか、後は、俺と一緒に水に流されたから弁の辺りかだ。
 
 それとも、あの大きな排水溝の中の奥で。
 どこかに引っかかっているのなら。
 考えたくないが、もうおしまいなんだ!

「……あった!」

 レベル 2とレベル 3にはハッチで繋がっていたんだ。そのため水がこちら側に入らない仕組みだ。

 よく覚えていないが、俺はそのハッチを開けてここへと来たんだ。そのハッチに工具箱が引っかかっていた。
 
 必要な工具だけを水浸しの工具箱から取り出した。

「や、やばい……このままだと……。発電所は蒸気タービンで発電しているから、蒸気のエネルギーが高い状態でタービンを通過して、元の水に戻せなくなるほど高温になると、水蒸気爆発をするぞ!」

 レベル 3の発電床の温度が更に上がっていた。靴の下からはモウモウと煙が勢いよく立ち上る。

 熱くて仕方がない。
 今度は俺は変電所へと走った。

 
地下発電所 その5

 ハンドルを回し、病院の駐車場へ愛車を停める。

「ここが尾田和良中央病院ね」

 ここに西村 研次郎とその娘 冴子が今でも入院しているはずだ。
 一階の受付で、私はこういうものだと名刺をだしたが。
 やはり、二人とも面会謝絶だった。

 これでわかった。
 確かに、ここに今でも入院しているんだ。
 西村 研次郎と冴子は……。 

 二人は生きていた……。

 二人は一体どんな状態なのだろうかと、受付に言うと、担任の医師に電話をかけてくれた。

 医師が言うには西村 研次郎と冴子とも今でも意識不明の重体なのだそうだ。
 
 それから、私は病院をしばらく歩いた。
 西村 研次郎の担当はまだいるはずだ。
 やっと、見つけた看護婦たちの話では……。

 西村 研次郎は意識のないままで、時々うわごとのように「level 4」と言い。
 ガタガタと震え、酷くうなされるのだそうだ。

 それと、こうも言うのだそうだ。

「ゆ・る・さ・な・い」

 西村 研次郎について、いや、きっと奥さんについて調べねば……。

 だが、意外な人物によって、簡単にとあることが判明した。
 それは動機だ。

 西村 研次郎の仕事仲間が時々くるというのだ。
 運良く今日も見舞いに来ていた。

「ああ、西村さんね」
「どういったことかわかりますか? あの市営住宅のエレベーターでの出来事です」

 ここはカフェテリア。

 私は中央のテーブルで、冷たいコーヒーを頼もうとしていた。
 男はお冷をしきりに飲んでいた。

「いやいや、実は私はその場にいたんですよ。あれは不幸以外の何ものでもなかったですよ……探偵さん」
「そうですか……それは大変心苦しいことを聞いてしまって……すみません」
「いえいえ、これも市が悪い。いや、この町がね。西村さんが引っ越してすぐですから。なんでも、欠陥だらけだったんです。あそこの住宅は」
「欠陥?」
「そうですよ。酷いですよね。工事会社が建設途中で倒産してしまったのに、そのまま人を住めるようにしたんですよ」

 男はグビリとお冷を飲み下し、

「それから、西村さんはある記事では死んだとされていますから……余計に酷い……まあ、でも、かなり酷い怪我だったんです。私の目の前で……おっと、失礼」

 男は一瞬、涙ぐんだ。
 お冷のおかわりをウエイターに頼んだ。

「冴子さんとは恋仲だったんじゃないかと、自分では思っていましたが、エレベーターに挟まって……顔も体も……以来、私は西村さんをずっと見舞うことにしました」

 私は溜息をついた。

 これが、動機なのだろう。
 西村 研次郎はこの町に恨みを持っていたのだ。
 
 それも多大な……。
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