第9話 家庭でプロの味を再現やと?

文字数 2,289文字

みなさんこんにちは、女子大生Yです。私、いつもえらそうに食べ物について語っている冨井先生が日頃どんなものを食べているのかにちょっと興味がありまして、今日は突撃ルポを強行いたしました。
なにが突撃ルポやねん。要するになんか食わせいう話やろ。突然やから大したもん無いで。そもそもここは自宅やなくて俺のオフィスやからな。
オフィスといってもワンルームで、ちゃんとキッチンも冷蔵庫もあるのがさすがですね。何かお手伝いしましょうか?
いや、かまへん。もうじき魚も焼けるし飯もぎょうさん炊いてとるから、Yちゃんは茶ぁでも淹れてそっちで座っといてくれ。
はい、ではお言葉に甘えて。ああいい匂いがしてきましたよ。
待たしたな。腹いっぱい食うてってや。
配膳までしていただいて、ありがとうございます。ええと本日の献立のメインは焼いた鯖に大根おろしを添えたものです。それに大盛のご飯とワカメのお味噌汁ですね。あとは山盛りのこれは高菜のお漬物ですか?
せや。俺は基本的に白い飯と美味い漬けもんがあったらそれでええねん。今日はお客さんやから鯖に大根おろし添えたけどな、ひとりやったらここまではせえへんな。
へえ・・・冨井先生、意外に質素な食生活なんですね。
そうか?日常食いうたら普通こんなもんちゃうか。鯖には骨があるから気ぃつけて食いや。
ああ鯖美味しいです!ほかほかご飯によく合いますね。
この季節はよく脂が乗っとるからな。この鯖には後のお楽しみがあってな、骨に身が少し残った状態まで食べたら高菜と一緒に飯に乗っけて熱いお茶をかけてお茶漬けにするねん。魚の出汁が出てめちゃ美味いんやで。よかったら試してみ。
ぜひ試してみます。でもちょっと意外でした。
なにがや?
冨井先生って普段からもっと凝った料理とか、プロの味を再現するようなメニューを作っておられるのかと思っていました。
アホ言え、俺はそんなにヒマちゃうぞ。プロの料理がどれだけ手間暇かかってる思うとるんや。ああいう料理は銭取ってお客に提供するから作れるもんや。
たしかにそうですけど・・・
よく「家庭でプロの味を再現」とかいう人おるけどな、趣味の料理でそういうのを追求するいうのは悪いことやないんやけど、実際のところはまず無理やねん。
え、無理なんですか。
考えてみい。「ご家庭でプロボクサーのパンチを再現」とか、「ご家庭でプロ野球投手の球を投げる」とか言われたらアホかと思うやろ。なんでそれが料理に限ってできる思うねん。
はあ、言われてみれば確かに・・・
だいたいそういうこと言う人って美味いフレンチとかイタリアン、あるいは中華や日本料理を再現したいわけやろ?そういう一流の店の料理を再現するには食材も調理器具も違うし、それに何十年も修行したシェフの技が簡単に真似られるわけないやんか。
もしお金も時間もあって食材も調理器具も一流のものを揃えたらどうでしょう?
そこまでやれば可能性はあるけどな、しかし我々素人がプロの料理を真似るとしたら、どうしてもためらってしまうことがひとつあるんや。普通の人はビビってできへんことをプロは平然とやるねん。
普通の人ならビビってしまうこと・・・なんですか?
まずな、家庭料理とレストランの料理は目的が根本的に違うねん。家庭料理は日常食や。毎日美味しくいただいて日々の栄養を得るために食うもんや。しかしレストランの料理は違うで。一口食うて「美味い!」って思わせなあかんねん。そのためやったらプロはなんでもするで。
そうなんですか。
まず素人ならぜったいためらうと思うのは油の量や。
・・・油?
プロはひとつの料理に驚くほど大量の油を使うねん。中華なんか材料を一度油通ししてから大量の油で炒めるやろ?イタリア料理かてオリーブ油をだばだば使うで。フランス料理なんかさらにすごい。
・・・怖がらせないでください。。
料理評論家のマイケル・ブースはフランスの名門料理学校ル・コルドン・ブルーで料理を学び、実際にフランスのレストランでの厨房経験もあるんやが、彼が著書で書いとった。フランス料理は「バター、バター、さらにバター」ってな。やはりフランスで学んでレストランまで経営しとったレイチェル・クーも言うとったわ「バターはすべてを美味しくする」ってな。彼女が料理番組で「バターを少々」言いながら一塊どさっと投入するのを見て驚いた視聴者も多いやろ。
私も驚きました。でもレイチェルは最近ヘルシー志向に転向したみたいです。
マッシュポテトかて一流店のレシピはポテトとバターは1:1らしいで。もっともそのくらい油を使うてもそれほどには脂っこさを感じさせへんのがプロの技なんやけどな。
でも健康に悪そうですね。
マイケル・ブースははっきりそう言っとるな。
日本料理はどうですか?
日本料理は中華、フレンチ、イタリアンに比べれば油を大量には使わんから、世界的にヘルシーフードやと思われとるな。それでも店で出す料理はやはり味優先なんは変わらん。たいていは塩分過多やし砂糖もどっさり使うからな。
やはりレストラン・メニューはたまにだからいいってことですね。
土井善晴先生も言っとるように、家庭料理は手早く一汁一菜でええんちゃうかな。毎日食うもんやから、あまり凝り過ぎず悩まず作るんがええと思うで。
あ!たしかにお茶漬け、すごく美味しいです!お魚のおいしい味がお茶に溶け込んでます。
せやろ。こんなんでええねん。こんなんで。
はいっ!おかわりください。
おかわりって魚はもう無いぞ!飯と高菜食うとれ!
はいっ!ではみなさん、今後何か取り扱ってほしいお料理とかテーマとかございましたら、ぜひお知らせくださいね。また次回♪
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登場人物紹介

冨井春義:関西弁のおっさん。悪口担当だが最近ちょっと日和っているとの噂も。意外に気が小さいのかもしれない。

女子大生Y:某芸術系大学生。ツッコミ担当・・・だったはずが最近いいボケをかますようになった様子。

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