第15話 一度は食うてみたいもんや。

文字数 1,658文字

ああ美味しかった♪タイ料理ごちそうさまでした。
俺も久しぶりのタイ料理やってんけど美味かったな。まあ礼はええからかわりになんかこのエッセイに話題でも提供してえな。
そうですねえ・・・私、じつは前々から一度食べてみたいと思っているお料理があるんですよ。
ああなるほど。話には聞いとるけど実際にはまだ食うたことのない、一度は食べてみたい料理いうことやな。それはなんやねん?
例の某グルメ漫画に出てきた究極の中国料理「佛跳牆(ファッチューチョン)」です。超高級料理なんですよね。一度味わってみたいんです。
あれか。なんかのアンケートでは、あの漫画に出てきた料理の中で一度食べてみたい料理の1位になったんやてな。たしかに面白いエピソードやったし、料理名の意味が「その匂いを嗅いだら修行中の坊さんも塀を飛び越えてやってくる」ってどんだけ美味いねんて興味持つわな。
何種類もの高級食材を磁器に入れて蒸し上げたスープって、とても美味しそうなんですが味の想像ができないんです。それだけに興味があって・・冨井先生はお召し上がりになったことありますか?
ああ2度ばかり食うたことがあるで。
うわ!2回もですか。さすがですね。で、どうでしたか?やはり究極の美食なんですか?
究極かどうかはわからへんけど、まあそりゃ美味いことは美味いで。俺が食うたんは烏骨鶏のスープをベースに乾燥アワビ、乾燥ナマコ、フカヒレ、なんか珍しいキノコ類、それに高麗人参、クコの実なんかも入っとったな。あれは薬膳料理でもあるんや。
漫画でも体にいいって書いてましたもんね。でもお高いんですよね。
お椀一杯のスープで高級和牛ステーキ並みの値段が普通やな。さらに材料を選べば値段の上限は青天井やそうや。しかしその値段に見合う味かどうかは疑問なんやけど、佛跳牆だけを食うわけやないし、佛跳牆出すような店は他の料理も美味いからな。トータルで満足できるやろいう料理や。
いつか絶対に食べてみます。
なんでも経験やからな。食うてみるとええで。
冨井先生にはそういうまだ食べたことのない、一度は味わってみたいと願うようなお料理はないんですか?もうこの世の美食を味わい尽くしました?
アホ言え、俺は魯山人ちゃうんやからな。食うたことないもんだらけやし、一度でもええから食うてみたいもんはいくつもあるで。
では何かひとつお願いします。
かなり昔、俺が生まれるより昔や。信州に馬肉のすき焼きを食わせる名店があってん。たしか池波正太郎のエッセイにも出てきたと思うで。絶品のすき焼きで、割り下に手仕込の味噌が隠し味なんやて。その店のことを調べたら今は肉屋だけになってもうてすき焼き屋は残念なことになくなったみたいや。
その幻のすき焼きが食べてみたいんですね。
いや、たしかにすき焼きも美味そうなんやけどな、どうやらこの店には裏メニューがあったらしいねん。普通には食べられへん、特別お客にしか出さん料理や。
それは興味深いですね。どんなお料理なんですか?
天ぷらや。もちろんただの天ぷらやないで。馬の脂で揚げた天ぷらやねん。
バーユで揚げる天ぷらってことですか。馬油(バーユ)は高級シャンプーや化粧品にも使われるくらいですから、たしかに贅沢ですよね。
馬の脂は、脂身をごっそり食べてもしつこくないくらい軽やかなんやてな。だから馬油で揚げた天ぷらもいくら食べても軽やかでしかも美味しいらしい。ただ、一度揚げるとその油は使いものにならんようになるから、いちいち油を取り換えなあかんねん。手間がかかるから特別な裏メニューなんや。これを一度食うてみたいんやけどもう店があれへんからな。自作するしかないかもしれんな。
その節はぜひご相伴させてください。
せやな、機会ができたらちゃんと呼んだるわ。
ついでに佛跳牆のほうもなんとか・・・
アホ、そこまで甘えんな。この漫才エッセイは一銭の稼ぎもあれへんねんからそんな予算もあれへんわい。取材で佛跳牆いうならどっかに売り込んでギャラ貰てこい。
はい、すみません・・・やはり甘かったですね。えへへ・・・♪また次回。
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登場人物紹介

冨井春義:関西弁のおっさん。悪口担当だが最近ちょっと日和っているとの噂も。意外に気が小さいのかもしれない。

女子大生Y:某芸術系大学生。ツッコミ担当・・・だったはずが最近いいボケをかますようになった様子。

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