第15話 一度は食うてみたいもんや。
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あれか。なんかのアンケートでは、あの漫画に出てきた料理の中で一度食べてみたい料理の1位になったんやてな。たしかに面白いエピソードやったし、料理名の意味が「その匂いを嗅いだら修行中の坊さんも塀を飛び越えてやってくる」ってどんだけ美味いねんて興味持つわな。
究極かどうかはわからへんけど、まあそりゃ美味いことは美味いで。俺が食うたんは烏骨鶏のスープをベースに乾燥アワビ、乾燥ナマコ、フカヒレ、なんか珍しいキノコ類、それに高麗人参、クコの実なんかも入っとったな。あれは薬膳料理でもあるんや。
お椀一杯のスープで高級和牛ステーキ並みの値段が普通やな。さらに材料を選べば値段の上限は青天井やそうや。しかしその値段に見合う味かどうかは疑問なんやけど、佛跳牆だけを食うわけやないし、佛跳牆出すような店は他の料理も美味いからな。トータルで満足できるやろいう料理や。
かなり昔、俺が生まれるより昔や。信州に馬肉のすき焼きを食わせる名店があってん。たしか池波正太郎のエッセイにも出てきたと思うで。絶品のすき焼きで、割り下に手仕込の味噌が隠し味なんやて。その店のことを調べたら今は肉屋だけになってもうてすき焼き屋は残念なことになくなったみたいや。
馬の脂は、脂身をごっそり食べてもしつこくないくらい軽やかなんやてな。だから馬油で揚げた天ぷらもいくら食べても軽やかでしかも美味しいらしい。ただ、一度揚げるとその油は使いものにならんようになるから、いちいち油を取り換えなあかんねん。手間がかかるから特別な裏メニューなんや。これを一度食うてみたいんやけどもう店があれへんからな。自作するしかないかもしれんな。