路上アーティストⅣ

文字数 494文字

 歩夢は自分が何を口走ったか発言より数秒遅れて理解する。「何言ってんだ私」と狼狽せずには居られない。が、それ以上に二五郎の方が当惑を露わにしていた。「本気ですか……いや、一度は頼んでおいてこんな事を言うのはおかしいけど、何と言うかあまりに重荷でしょう」
 このままではマズいと、歩夢が慌てて取り消そうとするも「あの……」と口にし掛けた言葉は「歩夢」と、自らを呼ぶ声によってかき消される。
「どうして此処に」と声の主。
「そっちこそ、どうして」と歩夢が怪訝な眼差しを向けた先には父の姿があった。気まずい。出先で遭遇するのは家の中で会うよりずっと。
「ちょっとな」と答える父。

 歩夢は違和感を覚えていた。外出先で父の隣に母が居ないのはとても珍しい。この夫婦は付かず離れずというか、母は何処へ行くにも父を意思に関わらず連れ回した。だから、父の単独行動は凄く不自然な光景だった。

「ヨッサン」と耳慣れない単語。口にしたのは二五郎だった。視線の先。話し掛けられた父は驚いた様子なく「鷹尾二五郎か」と呟く。どういう事か。歩夢は状況が上手く飲み込めなかった。
「よそよそしいな」と
 二五郎はバツが悪そうに苦笑した。
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