第5話 ザ・バズミサイルのライブへ

文字数 8,141文字

 (五)ザ・バズミサイルのライブへ
 4月も下旬になると外はだいぶ暖かくなってきている。皇居のお堀沿いの柳も葉をつけ始めている。僕らはライブの会場である日比谷公園に歩いて向かっている。
「今日はなんていう人のライブなの?」
「ザ・バズミサイルっていうバンドですよ。誘ったときも今日の朝も言ったじゃないですか」
 ナカジュンが呆れながら答える。
「亜美ちゃんは天然だから何回言っても覚えられないのよね」
 市川さんが亜美さんをからかって笑う。
 なんで亜美さんがいるの。ナカジュンよ、亜美さんも一緒だとは聞いてないんですけど。他にも誰かを誘っとくとは言っていたけど、亜美さんがいるとは。
 しかし、亜美ちゃんは天然で何回言っても覚えられないとは聞き捨てならない。亜美さんの記憶力は凄い。なにしろ1年半も前の歓迎会で僕が話した些末なことを覚えていたくらいだ。亜美さんがバズミサイルを知っているはずはないだろうし、パンクロックを聴くとも思えない。実際、知らないみたいだし。ていうか、そもそも誰のライブかも知らずに来ているのか。
「しかし、皆さんがまさかバズミサイルのライブに興味があるとは思いませんでしたよ」
 僕はあえて亜美さん単体ではなく「皆さんが」という言い方をした。
「事務所内で何人かに声をかけたんだけど、誰もバズミサイルを知らないし、ライブにも興味もないという感じでね。まあ、断られるだろうと思ったけど、いっそ熊倉さん達を誘ってみようと思ったんですよ。まさか、来てくれるとは思わなかったですよ」
 確かにナカジュンの言う通りだよな。ハラダ事務所でバズミサイルのライブに興味がある人はあまりいなそうだ。
「ロックバンドの野外ライブなんて行ったことないし、楽しそうかな、と思って。それに野々宮先生も好きなバンドだっていうから、それなら一緒に行ってみようってなったの。ナカジュン君は分かるけど野々宮先生の音楽の趣味が意外だなってみんなで話してたの」
 なるほど。市川さんには聞いていないのだが、「皆さんが」と聞いた以上は仕方ない。市川さんは亜美さん達のグループのリーダーのような存在だ。亜美さんが来るならバズミサイルに興味がなくても行きたいという人は山ほどいるだろう。それでこの人数になった訳だ。

 僕の前方では、ナカジュンや亜美さん達が雑談しながら歩いている。僕は複数の人がいる状況での会話が少し苦手だ。どうふるまっていいのか指針がなくて困ってしまう。だから、僕は皆の少し後ろを歩くことにした。
 暖かくなり始めている。春になると太陽光線の圧力も増しているような感覚を覚える。
 前方で繰り広げられる雑談がところどころ聞こえてくる。

「今日さ、桜井さんがまた派手な格好をしていたから、素敵な服ね、って言ったの。職場にああいう服を着てくるのはどうかと思ったから注意したつもりなんだけど、悪びれずに『ありがとうございます!ヴィヴィアンの新作なんです~』って言うのよ。最近の若い子はそうなのかしらねぇ」
 それはそうだろう。素敵な服ね、と言われたんだから、そう答えるのが普通ではないか。言葉通りに受け取って何が悪いのか。素敵な服ね、にそれ以上の意味を受け取れというのは無茶というものだ。月が綺麗ですね、にも月が綺麗だという意味しかないだろう。
「ナカジュン君、メガネがテカってるよ」
 ならキムワイプで拭けば綺麗になるだろう。
 無秩序に展開される前方の雑談に僕は心の中で勝手に応える。
「ナカジュン君って、部屋にサボテンがあるでしょ。サボテン相手に芝居のセリフの練習をしてそう。なんか私、人と話してるとその人の部屋が分かっちゃうのよね~」
 前方で市川さんが妙なことを言い出す。そんなこと分かるか。
「市川さんはナカジュンの家に行ったことがあるのですか?」
 思わず心の声が出てしまった。
「やだ~、あるわけないじゃないですか。何言ってんのよ。野々宮先生ってホント面白いよね~」
 頭の中にはてなマークが飛び交う。なら、その人の部屋が分かったことにはならないではないか。ナカジュンの部屋を想像するのは市川さんの勝手だが、事実確認ができて初めて分かったというべきだろう。話をしてその人の部屋が分かるのではなく、話をしてその人の部屋を勝手に決めつけているだけだろうに。
 亜美さんは何も言わずに静かに微笑んでいる。なるほど、そういうことなのか。この会話は特に意味はないのだ。市川さんの発言にも意味はないのだ。亜美さんは、市川さんによる人の部屋が分かっちゃう発言が、単なる決めつけであることを分かっているはずだ。分かっているけど、空気を読んで、特に意味のない会話だからいちいち事実確認するようなツッコミを入れずに、微笑んで聞き流すということをしているのだ。素敵な服ね、という意味不明な注意にも亜美さんは何も言わなかった。そういうことなのか。僕は空気を読めずに疑問に思ったことを聞いてしまった「ホント面白い人」なのだ。

 日比谷公園へ向かう途中の皇居のお堀に睡蓮(すいれん)の花が咲いている。睡蓮の花は亜美さんみたいだ。花弁の一枚一枚が一分の無駄もない完全な形状をしている。そして、全体としてサイクロイド曲線が描く幾何学模様のように、数学的な美しい対称性を備えた造形をなしている。一輪だけでも場を支配するような存在感を放つ。亜美さんは『熊倉場』により、周りを睡蓮(すいれん)を映すための水面(みなも)に変えてしまう。それでいて、自己主張することなくその場に静謐(せいひつ)に存在している。亜美さんは、全てを分かった上で何も言わないのだ。
 僕は自分の意見を言えない人は弱い人だと思っていた。自分自身がそうだったから。子供の頃に、弱い僕は自分の意見を言えなかった。弱くて自信が無いから自分の意見を言えなかったのだ。そんな弱い自分が嫌だったから、勉強だってスポーツだって人より上を目指してきた。そして、それなりに結果を残してきた。今では弁理士にもなり仕事も順調だし、ハラダ事務所内で評価されていることも感じている。今の僕は自分に自信を持っているし、自分の意見を言えるようになっている。だから、自分の意見を言えない人は弱い人だと思っていたのだ。亜美さんが自分の意見を言えないというのが不思議だった。だが、亜美さんは弱くない、むしろ強い。僕よりもはるか高みにいることは間違いない。僕は少しでも亜美さんを理解できるようになってきているのだろうか。僕が心の中でどう思おうが、実際の僕と亜美さんは「野々宮さん」、「熊倉さん」、と、苗字にさん付けで呼び合う関係でしかない。


 ライブが始まると会場が一気に熱狂する。野外なので、いわゆるハコと呼ばれるライブハウスとは違って音の反響がなく、音が空に抜けていく感じがする。こんな大きな音を聞くのは久しぶりだ。僕の身体も熱くなってくる。全身の血が体中を駆け巡るのが分かる。
 お気に入りの「せーので!」が始まった。僕は叫ぶ。「せーので!」ヴォーカルが煽る。会場が一体になって叫ぶ。「せーので!」自分の中にある全ての熱を放出する。僕は自信を持って生きることができる。僕はやれる。せーので走りだしている。
 そしてセットリストの最後が訪れた。

 最後の曲『サヨナラ教科書』

 会場の熱狂は最高潮に達して、そして最後の曲が終わった。


「こんなところいたんだ。急にいなくなっちゃったから心配したよ。どうしたの?」
 亜美さんが隅っこの方で座っている僕を見つけて声をかけてきた。
「いや、ちょっと疲れちゃったのかな。すこし休んでいたんですよ」
 意図せずとっさにそんなことを口走ってしまった。
「野々宮さん、なんかすごい叫んでたね。それで疲れちゃったのかな。野々宮さんは、あんな風に叫んだりすることもあるんだね。いつも冷静な野々宮さんの新しい一面が見られたなぁ」

 ライブが終わって皆は地下鉄霞が関駅やJR有楽町駅に向かったけど、僕は人混みを避けたかった。少し一人になりたい。今は電車にも乗りたくない。僕は皆に別れを告げてひとり皇居外苑に向かって歩くことにした。

「大丈夫?心配だから戻ってきちゃった」
 やはり亜美さんは周りがよく見えていて気が付く人だ。亜美さんは僕の異変に気付いているのだろう。亜美さんは僕と一緒の方向に歩き出した。心配をかけては申し訳ない。どう説明したものか。
「なんか今はライブの他のお客さんと一緒にいたくなくて、少し落ち着つかせてから帰ろうと思ったんですよ」
 亜美さんは何も言わずに僕の隣を歩いている。皇居のお堀の沿道の柳が揺れている。お堀の水面(みなも)も揺れている。皇居外苑を走るランナーとすれ違う。さっきまで近くで野外ライブ行われていたことなど無かったかのような日常の景色が広がっている。僕らは何も言わずに歩いている。日常の景色が僕の中に染み込んできて、僕は少しずつ落ち着いてきた。
「野々宮さん、大丈夫?やっぱり何か変だよ。具合でも悪いの?すこしベンチで休もうか」
 やはり亜美さんには気付かれている。どうも亜美さんには見透かされているような気がする。心配かけるのも悪いし、正直に今の気持ちを話した方がいいかな。それに僕は亜美さんには上辺(うわべ)ではなく本当の言葉で向き合うと誓ったはずだ。
 僕らは皇居のお堀に面した行幸通りのベンチに座った。暖かくなり始めたとはいえ、夜はまだだいぶ涼しい。通りには皇居周辺の写真を撮っている人がいる。夜の皇居周辺の時間を止めて切り出してみたくなるのだろう。夜になっても変わらず睡蓮(すいれん)は美しく静謐(せいひつ)(たたずんで)んでいる。
「大したことではないのだけど、ちょっと戸惑っていて」
 どう切り出せばいいかよく分からない。自分の感情を言葉にするのはすごく難しい。亜美さんは僕の次の言葉を待っている。
「ライブはすごく楽しかった。でもちょっと。最後の曲で複雑な気持ちになったんだ」
 とりあえず、それが僕の今の正直な気持ちだ。
「ラストはみんなすごい盛り上がってたよね。ナカジュン君によると、あのバンドの代表曲で一番人気がある曲らしいね。なんか嫌なことでもあったの?」
 亜美さんには本当の言葉で伝えたい。ごまかさずに正直に自分の今の感情を伝えたい。まずは落ち着こう。そして自分の感情を理解しなといけない。
「ナカジュンとは音楽の趣味が合うところがあって、いわゆるパンクロックっていうのかな。ああいう音楽が好きなんだ。高校のときにハマって、それ以来今でもよく聴いているんだ。バズミサイルはナカジュンにお勧めされて最近聴いて、いいな、って思ったんだ。とくに『せーので!』っていう曲が気に入って、とても熱い気持ちになれて、もっと頑張れるような気持になる。今日のライブでもやってたね。」
 亜美さんは静かに聞いている。聞いてくれようとしている。睡蓮(すいれん)のように静かに存在している。いっそ僕を睡蓮(すいれん)を映す水面(みなも)に変えて欲しい。そうすれば水面(みなも)に僕の正直な気持ちが映し出されるかもしれない。
「最後の曲は『サヨナラ教科書』っていう曲だったね。熊倉さんはどんな歌だったか覚えてる?」
「私は初めて聞いたし、歌詞はよく分からなかったけど。どんな歌なの?」
「僕も正確には覚えていないけど。最初の方は
   ≪お前が大切に持っているその教科書をみせてみろ≫
   ≪お前は誰かの言う通りに生きるのか≫
   ≪俺ならもう少し人間らしく自由に生きたい≫
とかそんな感じだったかな。
そして、おおよその内容としては、安っぽい教科書なんか必要じゃない、マニュアル通りの教科書なんていらない、もっと大事なことがある、人間らしく生きよう、というような歌だったよ」
「うん、確かにそんな感じの歌だったような気がする」
 亜美さんは続きを待っている。
「それで、まあ、ただの歌だし、気にするようなことではないんだけど」
「気にするようなことではない、って言っても、野々宮君は気にしてるじゃん」
 確かに亜美さんの言う通りだ。気にすることではないと自分で言い聞かせようとしているだけで、実際は気にしているからこんな気分なのだ。柔らかな笑顔をしながらも亜美さんは実に鋭い指摘をしてくる。正直でいるということは、本当の言葉で伝えるということは、理想の自分を見せることではないのだと改めて気付かされた。
「それに、野々宮君が気にするようなことでないと思っていても、私は野々宮君がどんな気持ちなのかが気になるよ。それを聞かせて欲しい」
 僕はゆっくりと呼吸をする。亜美さんの声が染み込む。
 僕はカバンから真紅の本を取り出した。
「これ。僕が大切に持っている教科書。物理学の教科書でね。ここ数か月くらい毎日ずっと勉強している。ノーベル物理学賞を受賞したリチャード・ファインマンという物理学者がカリフォルニア工科大学で行った講義をベースにした教科書なの」
「うわっ、重い。英語と数式がいっぱい。なんかすごく難しそう。野々宮君はこういうの勉強してるんだ。こんなの分かるの?」
「大学生向けの物理学の教科書でね。全てを理解するのは難しいけど、できるだけ理解したい。この教科書は使っていなかったけど、大学で一度は物理や数学も勉強しているから、分かるところもたくさんあるよ。でも、このファインマンの教科書はすごいんだ。なんていうかな。説明するのがとても難しいけど、凄く分かりやすい。そして、分かりやすいだけでなく、考え方を学ぶことができる。何かを覚えるとか暗記するとか、そういうことじゃなくて、考え方そのものを学ぶことができるということなの。言いたい事分かるかな」
「う~ん。まあなんとなく。単に知識が得られるだけじゃない、ということね」
「まさにそう。物理学の考え方を身に着けると、自分が持っている基礎知識や基礎法則、前提となる確実なことをベースに考えていくことで、未知な事や一見したところ理解できないような複雑なことを、簡単な法則から理解することができるようになるんだ。そして、そのための考え方を学ぶことができる、ということかな。」
「ライブの最後の曲が教科書を否定するような歌だったから嫌な気持ちになった、ということ?」
「まあ、言ってしまえば、そういうことかな」
 実に端的だ。言葉にすると少し違う気もするし、そんな単純な話でもないような気がするが、言われてみればその通りだ。僕は気分を害している。そんなに複雑なことではないのかもしれない。
「野々宮君もそういう気持ちになることがあるんだね。いつも冷静だし、自分に自信があって、仕事もできて優秀だから、人に何を言われても気にしなそうじゃない。そういうオーラが出てるし。実際、野々宮君はあまり他人の言葉は気にしない、って言っていたしね」
 その通りだ。やはり亜美さんはとても頭がいいし、記憶力も抜群だ。亜美さんと話していると自分の気持ちが整理されていくようだ。水面に僕の感情が少しずつ映し出されていく。僕が自分でもよく分からなかった感情を亜美さんが解きほぐしてくれている。自分の感情が少しずつ分かりかけてきた。
 そして、ここでようやく亜美さんが僕のことを「野々宮さん」ではなく、「野々宮君」と呼んでいることに気が付いた。『熊倉場』の中で僕も自分の感情を表す本当の言葉を探していく。
「物理学を勉強していく過程はものすごく楽しいし、自分の中で理解が進んでいることを実感できて、なんていうか、そこには熱狂や興奮がある。僕はパンクロックを聴いて育った、というのは言い過ぎだけど、とても好きなんだ。物理学を理解していくときの熱狂や興奮は、パンクロックを聴いているときの熱狂や興奮と同じか、いや、僕にとってはそれ以上だと思っている。今日のバズミサイルだけどね。だいたいの曲は好きですよ。ライブも楽しかったし。でも、なんかね、最後の『サヨナラ教科書』を聴いて、そしてそれに熱狂する他の人達を見ていたら、なんか自分はここにいちゃいけないんじゃないか、って感じたんだ。いちゃいけないというより、お前は来るな、と言われているような気がした。だって、僕のカバンの中には大切な教科書が入っているからね」
 風が吹くと夜の皇居前はまだ少し寒さを感じる。水面に映りはじめた僕の感情も風に揺らされる。さっきから時が止まっているように感じていたが、水面の揺れにより時間が流れていることを思い出す。
「私はあまり歌詞を真剣に聞いてないし、歌の内容やメッセージとかあまり考えたことが無かったな。ただの表現っていうか、そんなに気にしなくても、って思うかな」
「そうなんだよね。バズミサイルだって別にこの教科書を否定しているわけではないし、そもそも『教科書』っていうのもただの比喩というか、分かりやすい象徴として言っているだけだからね。それはちゃんと分かってる。だから怒りは感じないし、傷ついているわけでもない。それに、仮に僕のこの教科書を本当に否定したりバカにしたりする人がいたとしても、そんな他人の意見なんてどうでもいいはずなんだ。僕には僕の人生、考えがある。本来、僕が気にすることではないことも頭では分かっている」
「でも、野々宮君は気にしているのね」
「音楽は好きだし、何ならバズミサイルの曲だって好きだよ。僕はパンクロックが好きだし、バズミサイルだって、ライブに来ている人たちだって、僕と同じような気持ちで音楽が好きで、なんていうか、味方というか、同じような気持ちを共有する仲間だと思っている。だけど、最後の曲とそれに熱狂する人達を見ていたら、自分が思っているほど僕はこの人たちに受け入れられてないんだな、仲間だと思っていたのは僕だけで、勝手に勘違いしていただけなのかな、って思った」
「それは寂しくもなるし気にしちゃうよね。なんか分かるよ。私も好きな人に受け入れられていないかもしれない、って思ったらやっぱり気にしちゃうから。でも、これは野々宮君のとは違うのかな」
「なるほど。そうかも。熊倉さんの言う通りだと思う。全くの他人や、どうでもいい人の言葉なら気にしないでいられるのだけど、好きな音楽だったからこそなのかな」
 自分の感情を言葉にするのは難しい。でも、亜美さんと話すことで自分の感情が分かってきた。僕は亜美さんに対して本当の言葉で向き合うことができたのだろうか。


「野々宮君のそういうの聞けるとは思わなかったよ。なんか嬉しいな」
 そう言う亜美さんの顔は本当に嬉しそうだ。その顔にすごく安心する。
「上手く言葉にできたか分からないけど、なんて言うんだろう、こういうの。怒りでもなく、傷ついたわけでもなく」
 そして僕はもうこの気持ちが何なのか分かっている。そういうことか。

「モヤモヤする」
 
「ふふっ」
 亜美さんが笑い出す。
「ははっ」
 僕も可笑しくなってきた。
 声を出して笑うとますます可笑しくなってきた。
 通行人が僕たちを不思議そうに見ている。
 でも僕らは笑いが止まらない。止められそうにない。
「なんか嬉しそうだね。なんでそんなに笑ってるの」
「野々宮君だって笑ってるじゃない」
「だって、なんか可笑しくて。亜美さんもすごい笑ってるし。僕が嫌な気分になってモヤモヤしたのがそんなに嬉しいの?」
 僕が聞いても亜美さんの笑いは止まらない。
「そうね。いつも自信に満ちている野々宮君のそんな姿が見られて嬉しい。でも、それだけじゃないな。だって、野々宮君、これで私の気持ちが分かったでしょ」
 見上げると月が綺麗だった。

(完)
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2022.4.16
神山 ユキ

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

なお、ザ・バズミサイルは架空のバンドであり、日比谷公園(野音)でライブを行ったというのも架空の設定です。現在、過去、未来において、ザ・バズミサイルと同一あるいは類似の名前のバンドが存在したとしても、ただの偶然であり、本作とはなんの関係もありません。

参考文献など:
1. 書籍『The Feynman LECTURE ON PHYSICS』: Richard P. Feynman
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