第3話

文字数 906文字

 それから宮田の心霊談議に付き合わされて、ファミレスを出たのは午後8時である。
  
 電車に乗り込むと九時になったいた。帰宅は十時になりそうである。この時間は比較的なかは空いていて自由に席を選べた。ロングシートの端っこに決めそこに腰を下ろす。すぐに未沙に「今日、久しぶりに帰る」とLINEした。妻からの返信はなかった。レスの早い未沙が返信しないとは、何かあったのか?少し心配である。

 その時、千鳥足でこちらにやってくる初老の男性に姿に気づいた。電車の揺れも相俟ってかなり派手な歩き方であった。
 それが会社の芹澤さんでびっくり。彼は私の向かい側の席にドカンと座り、俺に手を上げ挨拶すると、横のひじ掛けに寄りかかって眠ってしまった。居酒屋にでも寄った帰りなのか。かなりの泥酔である。俺は社外で部下との接触をあまり好まないので、そのままにしておいた。
 
 電車は進み、芹澤さんは爆睡中である。酒好きなのか、彼のこのような姿は時折見かける。彼は工場の最年長で今年、五十二歳。俺は彼に仕事を教わったくちである。彼にしてみれば俺は妬みの対象となりうる。自分の息子ほどの年齢の男に先を越されたのである、いい気分ではないであろう。生霊飛ばしの可能性はある。しかし、彼の性格はいたって温厚で仕事も真面目。どちらかというと単調な仕事を黙々とこなす方が性に合っていると言っている。また以前、彼がアフターファイブを楽しむことが仕事を長続きさせる秘訣と話したのも覚えている。彼は人を恨むようなタイプではないと思う。

 他に俺に恨みをもつ奴は幾人かいる。出世欲が強く人を出し抜いてでも上へ行こうとするタイプの輩だ。芹澤さんより、そっちの方が疑わしい。うちの会社も一応、上場企業。水面下で激しい権力争いが繰り広げられているから気は抜けないのである。誰かが強烈な怨念を抱いていても不思議ではない。
 そんななことを考ええいたら最寄りの駅のアナウンスがあり、俺は立ち上がりドアの横まで行き待機した。
 芹澤さんは相変わらず眠っている。
 電車が止まり、俺は降りた。
 そして暖かい我が家に向け足を進めた。
 家が冷え切った状況になっているなど思いもせずに。
 

 

 


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