第1話

文字数 1,351文字

 家族が霊に悩まされている。
 それを知ったのは、つい昨晩のことであった。
 会社の宿直室で、いつものように妻から送られてくるLINEを見ているとギョッとした。
 送られてきた一枚の写真は、居間のテレビの前で遊ぶ二人の子供たちの光景。
 消えているテレビモニターの後ろから男らしい顔の目から上だけが「にゆっ」と飛び出して、子供たちを眺めている。顔の全体像は、はっきりしない。
 こいつが一昨日から家の中に現れては家族を驚かせていると妻の美沙のメッセージにあった。
 俺の家はまだ新築一年で、土地に曰くなど聞いたこともない。いったい、何なんだあいつの正体は?考えていたら昨晩は仮眠をまともに取れなかった。
 
 寝不足のまま朝を迎え、これから稼働中のラインと呼ばれる、製造工程の見回りをしなければならない時刻となった。
 ここはトナーと言われるコピー機の粉状のインクカートリッジ製造工場。三十ものラインが稼働する大工場。俺の仕事は生産管理。主に作業を効率化し生産数を増やす仕事である。
 俺が受け持つ最初のラインに入ると芹澤さんと言うベテランに声をかけられた。
「一徹。今何時?」
 と聞かれ腕時計を見て「十時四十分」と答えた。工場ではだれも俺のことを班長とは言わない。高校を卒業後、この「バンノウテウノロジー」という会社で一からたたき上げられ、ここまで登りつめた。だから皆に仲間意識があり、私を名前で呼ぶのだろう。

 見回りは次のラインに入った。このラインは生産数が飛びぬけて良く、わが班の稼ぎ頭である。熟練者と若い物の比率が良く我ながら絶妙な人員配置ができたと思う。
 ここは今日も絶好調で飛ばしていた。半自動だが人間と機械が完全に一体化して驚くべきスピードで利益をたたき出している。
 ラインの要というべきポジション、先頭のトナーの充填場所にさしかかると、今日も二十歳の宮田が頑張っていた。彼はまだ入社二年目であるが物覚えが良く、一年でここに配属され現在までバリバリ稼働を続けている。
 問題なのがこのポジションだった。
 ここの深夜勤務の人材が欠けているのである。この工場は二十四時間体制で片時も生産を止められない。仕方なく俺が、人員が確保できるまでの間、自らこの場所に深夜帯だけ入っているので2か月ばかり家に帰れないという訳なのであった。
 早く人員を確保したいというのが正直な気持ちである。いま家では不可解なことが起きている。俺が必要な時期なのだ。
 その時、またあの写真が思い返された。
 すると、突然ひらめいた。
 宮田は噂では心霊マニアらしい。かなりの変わり者らしいが、彼にあの写真のことを相談してみようか。思いついたら矢も楯もたまらず、いつの間にか声をかけていた。
「宮田」
 俺の言葉に宮田は防塵マスクを外して不愛想な目を向けてきた。
「何です?」
「シフト終わったら、お前、時間あるか?」
「ありますが、何で?」
「俺に少し付き合えよ」
「お断りです」
「相談があるんだが」
 その言葉を無視するかのように「ラインが止まりますから」と言って宮田は仕事に戻った。
「なあ」
 俺は懲りずに声をかけた。
 宮田は無視。
「面白い心霊写真、見たくないか?」
 と俺が言った時、宮田の手が止まつた。
 防塵マスクを外した宮田の目がキラッと光った。


 





 
 
 
 
 


 
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