第2話
文字数 1,507文字
ファミレスの窓から見える景色は夕方なのに、既に夜のようであった。
雨雲が空を覆い、街を走る車も、ほぼライトをつけて数珠なりになっている。
さっきから降り出した雨がガラスを伝って流れ落ちていた。
窓際の席に俺と宮田が向かい合い座っていた。
宮田は景色など眼中にない様子で、目の前に並べられたごちそうを貪り食っている。
俺といえば、深夜勤務が続いたせいで食欲がなく、フリードリンクのブラックコーヒーを飲みながら煙草をガンガン吸っていた。
宮田は結局、心霊写真の誘惑には勝てなかった様子で、シフト後、俺に付き合ってくれた。
「お前、大食漢だなあ」
「まあ、いくら食っても太らない体質なんで」
「若いのは、いいなあ」
「世間話はいいから、早く見せてくださいよ一徹さん」
「ああ」
と俺。胸ポケットからスマホを取り出しLINEの写真を開いて宮田に渡す。
宮田はスマホを受け取るなり食い入るように居間の写真を見始めた。そして
「えっ、どこどこ」と探している。
「テレビの上の方だよ」
宮田はなおも凝視している。そして、
「はっきり映ってるから。これ、生霊ですね」
と言った。
「生霊?なんだそれ?」
「知らないんですか?生きた人間が飛ばす霊魂です」
「生きてるのに飛ばせるのか?」
「生きていても霊魂はありますから。強い恨みを持った相手のもとに魂だけが行けるんですよ」
「へー。知らなかったな。そんなものがあるのか」
「こいつが厄介でして。お祓いも、お札も効かない強敵です」
「何で?」
「本人に飛ばしている意識がないかららしいです」
「そんな、厄介な代物なのか」
「まあ、知り合いの霊能者も、こればかりは手に負えないって言ってました」
「そうかあ。こまったなあ」
「でも、誰なんですかね、こいつ」
「分からない。俺も古株の中では出世してる方だから、恨みを買われることはあるとはいえるが……」
と、俺の頭の中に幾人かの奴の顔が思い浮かぶ。
「心当たりがありそうだけど。でも、何の解決にもならないですよ」
宮田は追い打ちをかけるように言った。
「そんな絶望させること言うなよ」
「すいません。でも本当なんで」
「おまえ、どうしたらいいと思う」
「僕は単なる心霊マニアなんで。正直アドバイスは……」
「じゃあ、陰陽師なんかどうかな」
「力はあると聞きましたが。現存している方がまだいるかどうか」
それから宮田はまた料理を一心不乱に食べはじめた。この若者にとってみれば、単なる興味本位の話でしかないのであろう。しかし、私には実際に家族に及んでいる危機なのである。一家の柱として何とか対処しなければいけない。しかし、宮田の話では絶望的な観測しか出てこなかった。どうすれば……。
とりあえず、今日は家に帰らなければ。心配で仕事どころではない。
俺は宮田に話を持ち掛けてみた。
「なあ、悪いが深夜勤務と明日の朝勤、交代してくれないか」
宮田は顔を上げ嫌な顔で言った。
「これからまた仕事じゃ、正直、きついっす。勘弁してください」
「そうか。無理強いはできんしな……」
と俺は内ポケットからパリパリの一万円札を出して宮田の方のテーブルに滑らせた。
「これでもか」
宮田は一万円をさっと取り上げ素早くポケットに入れて嬉しそうに言った。
「でも、尊敬する一徹さんの頼みでもあるし。いいです。交代します」
と、また食事に戻った。
まったく現金な奴である。
宮田のことはさておき、これで当面の対策は出来た。しかしどう対処すべきか……。それは一向に頭に浮かばない。
俺は根元まで燃えているタバコを、宮田に指摘されるまで気がつかなかった。
ガラス越しに梅雨のじとっとした雨を見ながら、俺はひたすら考え続けていた。
雨雲が空を覆い、街を走る車も、ほぼライトをつけて数珠なりになっている。
さっきから降り出した雨がガラスを伝って流れ落ちていた。
窓際の席に俺と宮田が向かい合い座っていた。
宮田は景色など眼中にない様子で、目の前に並べられたごちそうを貪り食っている。
俺といえば、深夜勤務が続いたせいで食欲がなく、フリードリンクのブラックコーヒーを飲みながら煙草をガンガン吸っていた。
宮田は結局、心霊写真の誘惑には勝てなかった様子で、シフト後、俺に付き合ってくれた。
「お前、大食漢だなあ」
「まあ、いくら食っても太らない体質なんで」
「若いのは、いいなあ」
「世間話はいいから、早く見せてくださいよ一徹さん」
「ああ」
と俺。胸ポケットからスマホを取り出しLINEの写真を開いて宮田に渡す。
宮田はスマホを受け取るなり食い入るように居間の写真を見始めた。そして
「えっ、どこどこ」と探している。
「テレビの上の方だよ」
宮田はなおも凝視している。そして、
「はっきり映ってるから。これ、生霊ですね」
と言った。
「生霊?なんだそれ?」
「知らないんですか?生きた人間が飛ばす霊魂です」
「生きてるのに飛ばせるのか?」
「生きていても霊魂はありますから。強い恨みを持った相手のもとに魂だけが行けるんですよ」
「へー。知らなかったな。そんなものがあるのか」
「こいつが厄介でして。お祓いも、お札も効かない強敵です」
「何で?」
「本人に飛ばしている意識がないかららしいです」
「そんな、厄介な代物なのか」
「まあ、知り合いの霊能者も、こればかりは手に負えないって言ってました」
「そうかあ。こまったなあ」
「でも、誰なんですかね、こいつ」
「分からない。俺も古株の中では出世してる方だから、恨みを買われることはあるとはいえるが……」
と、俺の頭の中に幾人かの奴の顔が思い浮かぶ。
「心当たりがありそうだけど。でも、何の解決にもならないですよ」
宮田は追い打ちをかけるように言った。
「そんな絶望させること言うなよ」
「すいません。でも本当なんで」
「おまえ、どうしたらいいと思う」
「僕は単なる心霊マニアなんで。正直アドバイスは……」
「じゃあ、陰陽師なんかどうかな」
「力はあると聞きましたが。現存している方がまだいるかどうか」
それから宮田はまた料理を一心不乱に食べはじめた。この若者にとってみれば、単なる興味本位の話でしかないのであろう。しかし、私には実際に家族に及んでいる危機なのである。一家の柱として何とか対処しなければいけない。しかし、宮田の話では絶望的な観測しか出てこなかった。どうすれば……。
とりあえず、今日は家に帰らなければ。心配で仕事どころではない。
俺は宮田に話を持ち掛けてみた。
「なあ、悪いが深夜勤務と明日の朝勤、交代してくれないか」
宮田は顔を上げ嫌な顔で言った。
「これからまた仕事じゃ、正直、きついっす。勘弁してください」
「そうか。無理強いはできんしな……」
と俺は内ポケットからパリパリの一万円札を出して宮田の方のテーブルに滑らせた。
「これでもか」
宮田は一万円をさっと取り上げ素早くポケットに入れて嬉しそうに言った。
「でも、尊敬する一徹さんの頼みでもあるし。いいです。交代します」
と、また食事に戻った。
まったく現金な奴である。
宮田のことはさておき、これで当面の対策は出来た。しかしどう対処すべきか……。それは一向に頭に浮かばない。
俺は根元まで燃えているタバコを、宮田に指摘されるまで気がつかなかった。
ガラス越しに梅雨のじとっとした雨を見ながら、俺はひたすら考え続けていた。