【結】イーダエイミ、その親、子

文字数 1,128文字

 いよいよ発売。
 この手のことがあるときは販促(はんそく)のためにサイン会とかイベントとかをやるのが(つね)で。けれど今回は写真集。自分の実物と写真を比べられるわけで、恥ずかしい。水着じゃなくてよかった。
「エイミさん、カワイイだけじゃなくてこんなオトナっぽいところもあるんですね」
 そんな感想も来てホッとする。
 私、可愛くなんてないけれど、コドモじゃない。それなりにいいトシなのだから。

 幸いにも印刷した部数は出荷しきったらしかった。たぶん増刷(ぞうさつ)なんてならないだろう。

 写真集のことやイベントのこともインスタとかにいつものように書いている。しかしSNSはしんどい。同業仲間と相互フォローをしたり、いちいちチェックして評価をつけたりしないといけない。マネージャーが管理してくれるのならそれでもいいかもしれないけれど、私の場合はそれも自分でやっている。

 そんな作業をちまちまやっていると、母から電話がかかってきた。
 今どき電話なんて古風(こふう)だと思うでしょう?
 その通りだ。

「見たよ、写真集!」
「えっ!」
「お父さんがほら、なんとかっていう専門店まで行って買ってきた」
 絶句……一般の本屋さんには売っていないようなマイナーな写真集を。メイトかどっかわかんないけど、もう五十近くにもなる父が入っていったところを想像すると、イタい。それも私のためなんなのに言うのもなんだけど、なんも後ろ(ゆび)さされるようなことでもないんだけど、我が父のことであるがゆえに、イタい。そしてなんだか申し(わけ)ないんだけれど、いや、それより、お父さん、写真集見ちゃったんだ……。
「で、何て?」
「『ほら、人気声優だなんて書いてるぞ。エイミ、売れてるんだな』って」
「ま、まあね……」
 なんだそのほんわかした感想は、とも思ったけど。
「『エイミはまだまだ結婚より仕事だよな』って言ってた」
「そりゃあそうよ。今が一番の(かせ)ぎどきだもん」
「そうよねぇ、若いうちだもんねぇ、可愛いのも」
「なにそれ、トシとったら()れるみたいな言い方。やめて。まだまだ辞めるつもりなんてないから」
「あ、そう。長くなるわね。好きな人とかいないの?」
「いないよ全然」
「そう。色恋沙汰(いろこいざた)もナシ、と。まったく誰に似たのかしらね」
 アンタだ!

 似たのは恋愛に(うと)いことだけではない。
 この声も顔も身長も、親に似た。
 それと――仕事熱心なところも。
 収入はたかだかしれている。稼ぎどきなのはお金のことではない。
 キャリア。

 私はE田A美(イーダエイミ)
 役者をしている。
 私の人生は、これから。
 私の仕事を見て演劇に進んでくれる子が増えることを、夢見ている。小さかった私のように。

 * *

「あぁそうそうイーダちゃん。例のアニメの劇場版。舞台挨拶入ったからー」

 そっちの舞台かっ!

  〈結〉
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