【1】イーダエイミの写真集

文字数 948文字

「そんなもの見て誰が得するんですか」
 (あらが)った。

 私はE田A美(イーダエイミ)(仮名)。特定されるのも、いろいろと(かど)が立つのも困るので、仮名(かめい)にしておく。ほかの同業者とは関係ありません。
 母に似て、そんな可愛いわけでもないしスタイルもよくない。
 なにせ背が低い。もしも顔が可愛ければ、身長が低いのも逆手(さかて)にとって可愛いことを売りにできたかもしれないけれど。大島優子みたいに。私には無理だ。スッピンはもとより、メイクしても自分の顔を見て()め息が出るくらい、私はダメである。

 それなのに私の写真集を出そうと社長が言う。そんなものを見て誰得(だれとく)なんだろう? なんの罰ゲームなんだろう。

「出版社。それとウチ」

 * *

「ブス」
「キモい」
 小さい頃から散々に言われてきた。そんなの言われなくてもなにより自分がわかってる。

 しかも私には背がない。
「キミは向いてないよ」
 そう言われた。
 舞台の上でも映えない。目立てない。

 だったら裏方に……。
 脚本家に、とも思ったけれど、いいホンは書けなかった。演出家に、とも思ったけれど、キャリアがない。

 だからこそ、この仕事をしているんだ。同じ業界にももう、可愛い子も多いけれど。でもそんな子たちはテレビドラマとか映画とかに行けばいい。
 こんな儲かりそうにもない仕事だけど、父には止められなかった。どうせ女なのだから、好きにしたらいい。独身のうちが(はな)だ、と。いや、どっちかというと、私の仕事には関心がなさそうだ。それがいい。あられもないキャラとか、きわどいセリフを言わされたりとかしてるのを見られたら、何をやっているんだと怒らせることになるだろう。いや、それだけならまだしも。悲しませることになる。大丈夫だよ。私、脱いだりなんてしないし、外国にカラダ売りに行ったりしないから。
 これでも顔は出さないけれどテレビにも出ているわけだし、ヒット作が映画でも近々(ちかぢか)公開されることになっている。キャラソンでは歌も出ているし、作品の宣伝のためにインターネットラジオ番組だってやったりしている。共演者と一緒だけれど。

 ただそんな私には(じつ)のところをいうと、言われたくない言葉がある。

 そんな私には、本当は言われたくない言葉がある。

 アニメ声

 それと……

 声優――

  ※〈次回「【2】あのイーダエイミさんが」に続く〉※
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