【6】イーダエイミの生きる道

文字数 870文字

 子役あがりをバカにしているわけではない。

 小さい頃、祖父母と両親に連れられてミュージカルを観に行った。
 シビれた。ちなみに、いまやその劇の内容なんてろくにおぼえていないくせに、衝撃だけはいまも忘れられない。
 自信はあった。でも。子役の道には進まなかった。両親の頭の中には、そんな可能性なんて毛頭なかったんだろう。たしか、ねだる私に、お父さんから「やめとけ」と言ったように思う。私もそういう両親の期待に応えようとした。それに、子役というオトナたちに合わせる仕事が、窮屈(きゅうくつ)で苦しそうに思えたから。
 逆に子役で成功する人ってきっと、本人以上に親に気合いが入ってる。彼らも親の期待に(こた)えようとしたに違いない。
 ありふれた進路をありがちに歩んでいった私。
 高校生になってようやく思い出したように演劇部に入った。けれど結局、私に回ってきた役目は、裏方。舞台に立つのには、向いてなかった。

 だからいま。こういう仕事をしている。

 あのとき両親が反対しなくって応募していたら、どうなっていたんだろう。もしも例えば(万が一にもないんじゃないかとは思うけど)アニーとかやっていたら……。いまの私はなかっただろうし、たぶん私は第一線から退いていただろうと思う、くたびれ果てて。

 いずれは劇演出や音響監督をやりたい。
 お金持ちの男性と結婚して(やしな)ってもらおうなんて思ってない。いくら女には肩身(かたみ)(せま)い男社会でも、同じスタートラインもキャリアパスも用意されていなくっても、男のほうだって人間だ。自分のことを棚に上げて結婚相手の要求レベルを上げるのもおかしい。だいたい、富裕層のセレブな結婚生活なんて、空虚(くうきょ)だろう。プライベートでまで仮面かぶって生きていたくはない。私、そんなに強くない。
 とりたてて顔もよくなければ、声もコレ。相手がいるのか? こんな私にはそもそも結婚なんてできないかもしれない。それも人生かな……。
 かりにもその日が来たら、ファンのみんなにはちゃんとスジを通したいと思う。裏切られたなんて思わせないように。

  ※〈次回「【7】ついにその日が来た」に続く〉※
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