第7話

文字数 1,018文字

その日、午後2時から会った私たちは水族館に行き、猫カフェにも寄ってネコの可愛さにやられつつ、さなちゃんが最後の晩餐に食べたいと言ったイチゴのショートケーキをケーキ屋で買って人気のない夜の公園で食べた。

さなちゃんとはLINEを交換したりした。
彼女にここで待っていてくださいと言われ、マンションの屋上で夜9時から待っている。
今は夜中の1時。
コンビニに立ち寄るヒマもなく、私はさなちゃんが今日死ぬつもりだとわかって今か今かと彼女がここに来るのを待ちわびた。

さなちゃんと一緒に行った水族館ではイルカショーにほほ笑むさなちゃんや猫カフェで白猫を抱っこする彼女の写真を見たりして時をすごした。

私の目論見(もくろみ)では首を吊った彼女を15秒目くらいで助けて説得するつもりだ。
マンションの屋上の扉がゆっくり開かれる。
キモかわいいよくわからないナゾの生き物なぬいぐるみとロープを抱えてさなちゃんはやってきた。

「もう心の準備は万端です。私の死に顔撮ってくれますか?」
「うん、撮るよ」
決してそんな場面は作り出させない。

物干し竿にしっかりとロープを結わえ、さなちゃんは少しためらった後首を縄に付けた。
ググゥッ!と物干し竿がきしむ音がして、
苦しそうなさなちゃんの顔が目に飛び込んでくる。

13秒して私は隠し持っていたカッターナイフでさなちゃんの首を傷つけないようにロープの根元を切った。
床に転がり落ちる彼女。

「な、何するんですか。死ねないじゃないですか」
あきらめたような声で静かに言うさなちゃんの唇を私はふさいだ。

女のコとキスするなんて初めてだ。
「さ、咲月さん……!? えっ?」
「私とキスして生きれるなら何度でもキスするよ。なんか恥ずいけど」

さなちゃんに24回のキスの雨を降らせた。
キスする度に荒かった彼女の吐息が静かになっていき、だんだんと彼女の顔は真っ赤に変化していった。

スマホのライトで彼女を照らすとほほえみながらさなは言った。
「咲月さん、ありがとう。私のファーストキス奪われちゃった」
「これで生きれる?」
「私を本気にさせましたね。わかりました。1年後に美月さんの住む東京まで行くつもりです。
一緒に花屋で働きたいです。
キスでこの世に引きとめた責任とってください」

気がつくとポロポロとさなちゃんはうれし泣きをしていた。
これじゃ死ねないよと小さくつぶやきつづけながら。

そんな様子を見た私もなんだか安堵で涙がこぼれてくる。
2人抱き合って、心で涙を分け合った。
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登場人物紹介

穂柄美月。

いて座のO型。

マルチクリエイティブな才能に長ける。

美咲。

美月の親友でナゾの自殺を遂げる。

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