タリナイ病

文字数 369文字

年の暮、スーツの青年が大部屋に運ばれてきた。
「数字がぁ」「売り上げがぁ」とつぶやいていたが、
不健康には見えなかったので看護師にわけを尋ねた。
「あの人、タリナイ病なのよ。お気の毒に」

きっと、最近ニュースで専門家が口々にしている新病のことだ。
不足感にやたらめったらと敏感になるらしい。
認知症の派生みたいなものに思っていたが、どうやら年齢は関係ないようだ。お気の毒に。

最初は「腹が減った」「薬が効かない」程度の文句しか言わなかったが、日に連れて要求は大きくなった。
有り余る食事、過剰な治療、広々とした個室、退屈しない娯楽品、万能な召使い、甘やかしてくれる女性…

ある日、ポックリとその男は亡くなった。
あれだけの過剰摂取をしたのだから、さぞ満足げに死んでいったのだろうと誰もが口を揃えたが…
故人の顔には、いかにも不満げな表情が張り付いていたと言う。
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