烏のたったひとつの悲願

文字数 371文字

人間は醜い生き物だ。

他人の不幸で腹を満たし、私欲のためには手を汚す。
災いに便乗して物を盗み、愛情を偽って心を穢す。
それらは人間の本性でもあるが、野性の根幹にあるものだ。
一部の人間はその野性を制御し切れない。
つまり動物から進化し切れなかった末裔たちだ。
だが、こうして社会の歯車がうまく回っているのは人間たちに自制の心、徳の心があるからだと思う。
誰かのために雨の中新聞にビニールをかける者。
家族のために早く起きて朝食を作る者。
地域のために横断歩道で旗をふる者。
国の未来のため議論を重ねる者。
そんな人間に私は憧れるのだ。

夜明けの近づく住宅街で、一羽の烏が願った。
そして、これまでの烏の善行を神様は見ていて、願いを叶えてやった。
朝焼けから一直線に、一陣の雷が落ちた。


その日、昼のワイドショーで煙突の上に登って降りられないようすの青年の姿が報道された。
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