意地っ張り

文字数 1,073文字

素直になれない性格は、なんて損なんだろうーー



「あーあ……」



仕事でミスをした。それもとんでもないミス。謝って許してもらうことが出来たが、テンションは駄々下がりだ。仕事から帰るなりご飯も食べずに自室のベッドで横になり、スマホ画面を弄る。



誰かに愚痴を聞いてもらいたいーー



でも、寄りかかる勇気がでないーー



気づけば、無駄に一時間が経過していた。こんな時、自分の性格が本当に恨めしい。



世の中の女の子達みたいに、可愛らしく甘えることが出来たら、今頃彼氏の1つでもいたのかなーー



こんなに、グダグダ悩まずに済んだのかなーー



1人で部屋にいると、そんな余計なことを考えてしまう。グルグル悩んでドツボにはまるのは悪い癖だ。でも、それが彼女の性格。どうしようもない。



あと少し、勇気が出ればーー



そう思いながら電話帳を開く。唯一甘えてもいいと思える相手をタップするが、通話ボタンを押す指が動かない。こんな時まで、彼女の性格は彼女の行動を邪魔するらしい。



「はぁ……」



諦めて、スマホをスリープ状態にする。もうこれはふて寝をした方が早そうだ。そう思い、布団を頭から被った。



ブルルルル……ブルルルル……



スマホのバイブ音が鳴り響く。こんな時に誰だ、と布団から顔を出し、画面を確認する。そこには、先ほど書けようと思ってかけられなかった人物の名前が記されていた。慌てて電話に出ると、呑気な声がスピーカーから響いてくる。



「よっ。今何してた?」
「んー。ふて寝?」
「はっ?何かあった?」
「仕事でミスっただけ」
「ふーん。愚痴聞いてやろうか?」



息をするように、彼は甘い誘惑をしてくる。せっかくの申し出だ。いっそのこと、このまま寄りかかってしまおうか。そんな気さえ起きてくる。



けれど……



「大丈夫。寝れば忘れるから」



やっぱり、寄りかかることは出来なかった。我ながらなんて強情なんだろうと、思わず苦笑いする。



「それよりも、何か用だったんじゃないの?」



話題をそらせば、彼はすぐ自分の話したい話を始める。彼の他愛もない話に相槌を打っていると、いつの間にか、胸の奥のモヤモヤはどこかに消え去っていた。



本当に素直じゃないーー



でも、まだ耐えられるーー



そう言い聞かせながら、彼女は今宵も長電話に興じ、自分の気持ちを誤魔化すのだった。




意地っ張り



~Fin~
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登場人物紹介

ヒロイン。本文中では彼女表記。社会人で昼間は会社勤めをしている。素直になれない性格で人に頼ることが苦手。

ヒロインの信頼する友人。本文中では彼表記。社会人でヒロインとは別の会社に勤めている。マイペースで細かいことは気にしない。

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