好きなものは共有したい

文字数 1,076文字

それは、ある金曜の夜のことーー



「何これ。面白いじゃん」



YouTubeで動画を漁っていた際、偶然見つけた動画。どうも、今巷では流行っているらしい。流れに乗り遅れたと感じながらも、食い入るように画面を見つめ、笑みを綻ばせる。



この面白さを、誰かと共有したいーー



そう思い、時計を見る。23時20分と示されているのを見て、「あー……」と思わず声が漏れる。仲の良い友達は昨日子どもが産まれたばかり。この時間だと、もう眠っているだろう。そうなると、選択肢は限られてくる。



独身で、明日休みの友人ーー



電話帳を眺めていると、好条件の人物の名前が表示される。彼なら、この時間でも電話に出てくれるだろう。迷うことなく、コールボタンを押す。



プルルル……プルルル……



「はい? どうした?」



電話口の向こうから眠たそうな声が聞こえてくる。もしかしたら、寝ようとしていたのかもしれない。ほんの少しだけ、罪悪感を感じる。



「ごめん。寝るとこだった?」
「んー。でも寝れなかったから。それよりどうした? こんな時間に珍しいじゃん」
「いや、面白い動画があったから布教したくて」
「何それ? どんなの?」



眠りを妨げたというのに、何も気にせず彼は彼女の話題に食いつく。それが嬉しくて、すぐさまスカイプにURLを送る。百聞は一見に如かず。見てもらった方が早い。彼もすぐにパソコンを開いてくれた。スピーカーからは、先ほどまで見ていた動画の音が漏れ聞こえてくる。



「いいじゃんこれ!」
「でしょ? わたしもさっき見つけた」
「面白い!よく見つけたな!」



期待通りの反応を、彼は返してくれる。自然と口角が緩むのを感じた。自分が好きなものが褒められるのは素直に嬉しかった。



「その動画ね!」



気分がよくなり、つい饒舌になる。普段は聞き役に回ることが多いからこそ、新鮮な感覚だった。そんな彼女のことを嫌がらずに、彼が楽しそうに聞いてくれるものだから、更に口の滑りがよくなる。気が付けば時計の針は1時を指していた。



「ごめん。喋りすぎた」
「いいって。俺も楽しかったし。また面白い物見つけたら教えて」
「分かった」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」



そう囁いて、通話終了ボタンを押す。ベッドに横になるが、興奮が冷めやらず、まだまだ寝れそうにない。そしてまた、彼女はYouTubeの画面を開くのだった。




好きなものは共有したい




~Fin~
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登場人物紹介

ヒロイン。本文中では彼女表記。社会人で昼間は会社勤めをしている。素直になれない性格で人に頼ることが苦手。

ヒロインの信頼する友人。本文中では彼表記。社会人でヒロインとは別の会社に勤めている。マイペースで細かいことは気にしない。

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