優柔不断なお土産選び

文字数 1,647文字

「楽しかったねー」
「うん。また、行こうね」



友達との旅行。仕事の合間に訪れたほんの一時の時間。天気にも恵まれ、非日常的な出来事に身も心もリフレッシュすることが出来た。むしろ、現実には戻りたくない。明日から仕事と思うと気分が沈む。だが、今はそんなことは忘れ、残り少ない旅路を楽しむべきだ。そう心に言い聞かせながら重い荷物を引っ張り、駅の土産物屋へと足を運んだ。土産物屋には地元では見たことのないようなお菓子や、地域限定のキャラクター物のグッズなど、様々な物が所せましと並んでいた。



「うわー……悩むなー……」
「どれもいいよねー。あっ! わたしあっちのお店見てくる!」
「分かった。じゃあ後で新幹線口で待ち合わせよう」
「OK! じゃあ行ってくるね!」



 そう言って、友達は別の土産物屋へと向かっていった。一人残された彼女は、商品棚と睨めっこをする。会社にはお菓子を買っていくとして、他の友達には何を買っていこう。見れば見るほど、どれを買っても喜んでもらえそうな気がして決めることができない。どうしても目移りしてしまう。



 店の中を見て回るだけであっという間に時間は経つ。けれど、それと反比例して籠の中身は一切増えない。このままでは、新幹線の時間に間に合わなくなる。せっかく旅行に来たのに、お土産を買わずに帰るのはもったいない。



 こういう時は、誰かアドバイザーに意見を求めるに限る。一緒に来た友達は別の所に行ってしまい、頼ることはできない。彼女はスマホの画面をスワイプし、今一番頼りになるかもしれない人物の番号をタップする。



 プルルルル……プルルルル……



「はい。(くすのき)です」
「えっ! 朱莉(あかり)ちゃん!?」



 彼に電話をかけたはずなのに、電話口に出たのは彼の恋人だった。どうやら、間の悪い時にかけてしまったらしい。彼女は挨拶もそこそこに電話を切ろうとしたが、電話口の可愛い声がそれを制する。



美海(みなみ)っち待って! 彼氏になんか用だったんでしょ?」
「そうだけど……大した用じゃないから! それに邪魔したら悪いし」
「大丈夫。今あいつお使いに行ってていないから! わたしでよければ話を聞くよ!」
「でも……」
「いいから! ほらなんでも朱莉様に言ってみてよ!」



 普通、彼氏の携帯に他の女から電話があるなんて嫌なはずなのに――



 彼の恋人は本当に変わっている、と思いながらも、今は頼れる所はそこしかない。彼女は意を決して彼の恋人に土産物で悩んでいることを相談する。すると彼の恋人は笑いながら、土産物屋に何があるのかを聞いてきた。一つ一つ答えていくと、その中から彼の恋人が商品をピックアップしてくれる。



 正直、彼よりもかなり頼りになる――



 切羽詰まった中で、彼女には彼の恋人が女神のように見えた――



「本当にありがとう。助かった」
「お安い御用だよ! でも美海っち、お土産の相談をあいつにしたらダメだよ。あいつ本当にセンスないから」
「そんなにセンスないの?」
「うん。だって彼女の誕生日にどっかの民族のお守りみたいな奴選ぼうとするんだよ? しかも可愛ければいいけど、なんか気味悪いやつ」
「それは……センスないね」
「でしょ! だからもし困った時はわたしに相談して!」
「分かった。今度からそうする。相談に乗ってくれてありがとう、朱莉ちゃん」
「いいえー! じゃあお土産楽しみに待ってるねー!」
「うん。それじゃあね」



 挨拶をし、通話ボタンを切る。時計を見れば、良い時間になっていた。慌ててカゴをレジに持ち込み、会計を済ませる。商品を受け取ると、彼女は新幹線口へと走っていった。



 彼の恋人と話すのは色んな意味で緊張するが、これからもいい友人関係を築いていけたらいい――


 そう思えた、ひと時だった――




優柔不断なお土産選び




~Fin~
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登場人物紹介

ヒロイン。本文中では彼女表記。社会人で昼間は会社勤めをしている。素直になれない性格で人に頼ることが苦手。

ヒロインの信頼する友人。本文中では彼表記。社会人でヒロインとは別の会社に勤めている。マイペースで細かいことは気にしない。

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