第13話

文字数 1,532文字

この髪はね。私の子ども達が作ってくれたの。美しいでしょ?」
そう言ってクモ女は周りのクモを愛おしげに見つめた。狂ってる。
「何をする?」
「君とバイバイするんだよ。そしたら女王も私のものだしね。君が私のものに
なればこんな思いすることなかったのに・・・。」
僕の首を締め付ける。苦しい・・・。締め付けは強くある一方だ。これはヤ
バイ。もう限界だ・・・。意識が遠のいていく。・・・。パーポーパーポーパ
ーポー。サイレンの音が鳴った。やっと十分たった。五分にすればよかった。
「これは一体何事?」
突然の事で女は慌てふためいている。首に巻き付いていた髪が緩む。助かった
・・・
。クモ達の動きもいきなりバラバラになる。「警察を呼んでおいた。子
どもがぼろ屋の下敷きになった嘘を言っておいた。と諦めた方がいい。」
再び体が自由になる。一時的な時間しのぎにしかならない。さて、こっからど
うしたものか。警察が来るまでノープランなのだ。ファタは未だに顔色が悪い。
「こんなのすぐにわかるに決まってるでしょ。予めサイレン音が鳴るようにし
ておいたんでしょ?警察が来たって思わせるために。でもね、少し爪が甘いの。
こんな田舎、すぐに警察がこれるわけないでしょ。なめないで頂戴。」
万事休す。どうしたものか。打つ手なし。冷や汗がダラダラと流れる。
「今度こそ本当にさようならね。」
そう言って、クモ女は再びクモの髪で僕の首を絞める。今度こそ本当にもう無
理・・・。僕の意識はぷつりと切れた・・・。
ひどい不協和音で起きた。頭が痛い。どうやら僕は気を失っていたようだ。
それにしても酷い音楽だ。音楽と言えるかどうかも怪しい。
「ああああ、うううう。」
僕の目の前で妖精達に囲まれたクモ女が苦しそうにしている。確かにひどい音
ではあるがそこまではない。
「どうなっている?」
「カイ、気がついたのか。倒れたときは心配したぞ。」
「ファタ、よかった。無事だったんだね。」
「それはこちらの台詞だ。ちょうどカイが倒れた後に仲間達が来てくれてな。
我々の音楽はあらゆる生物に作用する。人間には効果が薄いがな。」
「さて、おまえは私の仲間を傷つけた。万死に値する。」
ファタはクモ女に向かって言った。弓矢を取り出して弓を放った。
「小さいからと言って侮るなよ。我々の音楽により力を削られた上に毒が塗っ
てある矢だ。助かるかは時の運だな。」
クモ女は「うう・・。」とうめきバタリと倒れた。
僕らは外に出た。時間はそんなにたっていないような気がしたのに時間を確
認する夕方五時を過ぎていた。
「今回はおまえのおかげだカイ。礼を言うぞ。お礼にこれを受け取って欲し
い。」
ファタは頭に乗っている金色のティアラを僕に差し出した。
「こんな立派なものもらえないよ。」
「カイ、陛下の言っていることを断るなど言語道断。陛下がカイに差し上げる
と言っているのだ。素直に受け取れ。」
「では、遠慮なく。ありがたく頂戴いたします。」
ファタから貰ってティアラを右手の薬指にはめた。ちょうどいい大きさの指輪
になった。
「カイ、それでだな。例のシリアルと言う奴を皆にも食べさせたいのだが。」
「もちろん。道案内さえしてくれれば僕が持って行くよ。」
「本当か。恩に着るぞ。カイ。」
ファタの目が輝いている。
「ファタさえよければ毎年夏に僕がシリアルを持ってきてあげるよ。」
「本当に、本当か?」
「本当だってば。ファタ、手出して。」
「何で?」不思議そうな顔をする。
「いいから、いいから。日本でするおまじない。
「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます指切った。」
僕はこれから毎年夏に君に会いに行くよ。よき隣人としてね。

【参考文献】
ハリー・ポッターの魔法世界ガイド
アラン・ゾラ・クロンゼック&エリザベス・クロンゼック
和繭桃子訳
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登場人物紹介

カイ

日本のごく普通の大学生。イギリス人の祖父母を持つクオーターであり、そのためか少し見た目を気にしている。大学の長い夏休みを利用して祖父母が住むイギリスの田舎町に遊びに行く。田舎町では子どもが少ないから可愛がられている。とあることがきっかけで妖精と出会う。

ファタ

妖精の国の女王である。気が強い。人間であるカイと出会い行動をともにする。人間が嫌いだが、カイのことは信頼している。カイからもらったグラノーラが大好物。

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