毎晩、死んでいる少年

文字数 1,093文字

僕は毎晩、夢を見る
小さい頃から一度だって、

その夢を見なかった日はない

あんたはいいわよね、

毎日そんな能天気そうな顔してて

朝の通学途中

幼馴染で同じ高校に通う(まい)

顔を合わせるなり僕にそう言って来た

これは毎朝繰り返される

挨拶のようなもので

『おはよう』の代わりだ

そうかな?
今日の舞は真紅の髪に赤い瞳か……
舞は毎日いつも、その姿形が違う
日によって黒髪だったり、

金髪だったり……

目の色だって、黒、茶、青、赤と毎日違う
緑やピンク色の髪なんて日もある
いや、そもそも顔自体が違う

毎日別人みたいなものだ

でも本人はそのことに

全く気づいていない

毎日毎日、同じ自分だと思っている
まぁ、でもそれは

舞に限ったことじゃあない

なによ、あんた

また夕べも女神の夢を見た訳?

まぁね
それでなんか知らないけど、

そんなすっきりしている訳?

まぁね
いいわよねぇ、

毎日いい夢見られて、

それで幸せなんだから、あんたは

高校三年生にもなって、

そんなんで毎朝幸せとか、

本当に羨ましいわよ

……あんた、

よく考えるとやばい奴よね

まぁ、小さい時からそんなだったし、

あたしは慣れてるけど

そんな恨み言も毎朝のことさ
高校に着いて

僕はいつもの教室に入る

おはよう
おはよう
おうっ
そこにはやはり、

毎日違う姿形をした

クラスメイトが座っている

そう、

毎日見た目が違うのは

舞だけじゃない

僕自身も含めて、

みんな外見が毎日違う

だって、僕達は

毎日生まれ変わっているのだから


どうしてこの世界の人間達は

気づいていないのだろう……

正確には、

気づいていないというより、

覚えていないと言うべきなのか

この世界の人間達は、

毎日毎日、同じ生が

ずっと続いていると思っている

肉体の死が本当の死だと思っている……
でも、それは間違いなんだ
僕は、いや、

この世界のすべての人間達には、

毎晩死が訪れている

魂が安息につく瞬間、

つまり眠りこそが本当の死

僕は毎晩、眠りにつくと、

夢の中で女神に会う

真っ白な空間に

神々しく光り輝く美しい女神

人の子よ、

あなたの今日の寿命はもう尽きました

あなたは限りある生を

ちゃんと全う出来ましたか?

女神は毎晩同じ質問をして来る
今日までのあなたは、

もう死んだのです

あなたは、明日のあなたに

転生しなくてはなりません

いや質問だけではなく、

言葉のすべてが毎晩同じだ

実は僕はもう、このセリフを

すっかり暗記してしまっている

この世界の人間の寿命は、

本当は一日しかないのです

それを、毎晩転生させることによって、


連続性のある生命だと思わせているに過ぎません

さぁ、お行きなさい
転生した明日のあなたには

きっと祝福が待っているでしょう

そう女神に言われて僕は、

次の転生へと繋がる扉を開く

……それが僕の毎晩見る夢
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