猛暑日にやって来た珍客

文字数 1,937文字

俺は高校卒業の前後ぐらいから、

もうかれこれ二年以上引きこもり生活を送っている

親が仕事で忙しくて

家にはいないから

お腹が減った時は

仕方なく買出しに行くぐらいは外に出るので

世間からすれば準引きこもりということになるらしいけど


何もする気が起こらず、

体を動かすことですら億劫で億劫で仕方ない

そんなだから、

一日部屋で寝転がっていて


体調がいい時はスマホをいじったりネットをする、そんな生活

家庭環境なんかのいろんな要素が

複雑に絡みあっているようで

原因ははっきりとはわからないらしい

それはそれは暑い夏の日中、

猛暑日と言われた日のこと。

最悪なことに部屋のエアコンが動かなくなり、

汗がダラダラ流れるぐらいに蒸し暑い。


さすがに引きこもりのヒロナリもこれには耐えられず

部屋のカーテンと窓を開ける。

このクソ暑いのに

エアコン壊れてるとか、マジねぇわ

ヒロナリがベッドで横になっていると、

開いた窓からゆっくりと何かが部屋の中に飛び込んで来る。

ん? なんだ?

虫か?

それにしては……

妙にデカくないか?

室内をフラフラ飛び回る謎の生物を、

改めて目を凝らしてよく見てみると、それは蝙蝠。

……
うわぁっ!

それからしばらくして、

部屋の中に飛び込んで来たフラフラの蝙蝠は

力尽きてついに床に落ちる。

……

うわぁ、ねえわぁ、

マジ、ねえわぁ


家の中に蝙蝠とかありえねーし

床に落ちた蝙蝠、体をぴくぴく小刻みに震わせている。
……

うわぁ、キモッ

こんなんぜってぇ触れねーわ

ただでさえ引きこもり生活で

動くのが億劫になっているのに、

この暑さでさらに動く気を無くしいるヒロナリ。


この事態にもベッドから動こうとはしない。

見なかったことにしよ
蝙蝠から目線を外し天井を見つめる。
寝て起きたらいなくなってるって

しかし、しばらくしてまた目線を戻すと、

蝙蝠はやはりまだ同じ場所でぴくぴくしている。

もういいわ、放っとこ
まずこの暑さを

自分が死なずに乗り越えられるかどうか


そっちの方が問題だし

俺このまま暑くて死ぬし

蝙蝠の一匹や二匹、

もうどうでもいいし

自分が死にそうなことに比べれば、

蝙蝠が横で死にそうになっているぐらいは、

確かにどうということはない。

……

いつの間にか眠ってしまい、

ヒロナリが目を覚ますともう既に夜になっていた。


窓からは夜風が入って来ており、

カーテンがなびき、日中よりはやはり涼しい。

蝙蝠のことなど

すっかり忘れていたヒロナリだったが、


暗い部屋に何かがいる気配を感じ

体をビクッとさせて驚く。

……
蝙蝠はじっとヒロナリの顔を見つめている。
やべぇ、今俺

蝙蝠と目が合った、こえぇぇぇ

この蝙蝠、夜になり涼しくなったおかげで

少し回復したようで、


日中のようにぴくぴく震えたりしておらず、

ちょっと元気そうに見える。

この状況は

一体どうしたらいいのか……

思案するヒロナリ。
叩き出すと言っても、

向かって来られたら、

それはそれで非常に困る

噛み付かれでもしようものなら

感染症も心配だから、

病院に行かなくてならない

家の部屋に引きこもっているのに、

蝙蝠に噛み付かれて感染症になるなんて


医者に、俺の部屋は、

洞窟やジャングルの秘境にあるのかと思われかねない

……
棒やほうきで叩いて脅かして、

逃げるのを待つとしても、

この部屋にそんな物はない

ほうきを取りに行くために

部屋から出るというのは


引きこもりとしてどうなのだろうか

さらに言うと

間違って本体を叩いてしまい


運悪くクリティカルヒット、

渾身の一撃が出してしまって


この蝙蝠が死んでしまったら

その死骸をどうすればよいと言うのか

ちょっと考えただけでも身の毛がよだつ

ましてや潰れてしまい

血や中の具が出たりしようものなら


もう発狂ものだろ、これ

……

とにかく

突然襲い掛かって来ることがないように


じっと蝙蝠を見続けて

警戒を怠らないようにするしかない

蝙蝠もまた様子を伺っているかのように

じっとこちらを見据えている。

……

しばし対峙するヒロナリと蝙蝠。

じっとりと汗ばむような緊張の空気が流れる。

……

すると蝙蝠は一旦頭を低く下げ、

羽根をバタつかせて空に舞う。

おわっ

蝙蝠は二、三度部屋の中を旋回すると

開いていた窓から外へと飛び出して行く。

窓の外、夜空には月が浮かんでおり、

先程の珍客の仲間なのか蝙蝠の群れが飛んでいる。

俺が二年ぐらい引きこもってる間に

蝙蝠が大量発生する時代になったんかよ


日本やべぇな

そしてヒロナリはどんなに暑くても

部屋の窓は二度と開けないと誓う。

……

数日後、寝ていたヒロナリは

窓をドンドン叩く音がうるさくて目が覚める。

おかしいな?

ここは二階の部屋だぞ


誰かが窓を叩いているとは思えないけど

外が強風で

何かがぶつかってんのか?

そう思いながら、眠い目を擦りながら

部屋のカーテンを開けてみる。

やっほー
そこには宙に浮いて、窓をノックしている

ゴスロリ衣装の美少女がいた。

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