コードネーム『大阪のおばちゃん』

文字数 1,654文字

大阪のおばちゃん、

人は彼女のことをそう呼んでいた。


だが本当に彼女が大阪出身であるのかを

知る者は誰もいなかった。


そして彼女が日本政府所属の

秘密工作員であることなど

誰も知るはずがなかった……。

日課であるスポーツセンター通い、

毎日午前中はそこに通うことにしているおばちゃん。

地元自治体が運営している

スポーツセンターって


一回三百円で

お値段も非常にリーズナブル


庶民的でお得よねぇ

そこでおばちゃんが仲良くなった

年配女性の珠代たまよさん、


おばちゃんよりも年配であるのだから、


おそらくは六十歳前後、

もう高齢者の域に達しようかというところか。

家、すぐそこたがら

ちょっと寄っててちょうだいよ

あらぁ、

ほな、そうさせてもらおうかしら

今日はいつものスポーツセンターの帰りに

珠代さんの家にお呼ばれしたおばちゃん。


もうそこは

『大阪のおばちゃん』と呼ばれるだけあって、

コミュニケーション能力の塊で


親しみ易く、誰の懐にも

すぐに飛び込むことを得意としている。

あ、おかあさん、

どうぞおかまいなくね

私もすぐにおいとましますから

大概、中年女性がそう言って早く帰ったためしがない。


女性というのは基本的には

お喋りが好きなものなのであろう。

そんなこと言わずに

ゆっくりしていってよ

そうやって甘やかすものだから

内容にどれだけ価値があるのか分からないお喋りが

何時間にも渡って繰り返されることになる。


それなりの世間話しが

それなりに展開された後、

しみじみとした口調で珠代さんは呟いた。

……うちの息子もねえ

もう三十歳だと言うのに、

結婚もしないでねえ

お相手もいないみたいだし……

どこかにいい人いないかしらねえ?

まぁ、それホンマなん?
それはおかあさんも気になるわねえ

それならうちが息子さんに

いい人紹介してあげるわ

本当?
うちホンマ、そういうの得意でなぁ

ほら、昔近所に必ずおったでしょ?

世話焼きのおばはん

うちもあんな感じやさかい

みんなからお見合い婆あって言われてんのや

もう今までに百組近いカップルを

結婚させてきてるさかいな

おかあさんも大船に乗った気で

うちに任せてくれたらええわ

そう言いながら

おばちゃんはカバンから眼鏡を取り出して掛け、

手元にあったスマホのアプリを起動させた。


コードネーム『大阪のおばちゃん』からの支援要請を確認しました……

自律型人工知能AI『お見合い婆あ』

端末L8O8V8E8、

システムを起動します

オペレーターがそう告げるとすぐさま

指揮官の氷山ひやま冴子さえこから指示が出る。

『大阪のおばちゃん』の位置情報から

住所を特定

眼鏡越しに送られて来る映像から

母親の顔画像照合

息子である対象候補者の人物特定、急げっ

ここは内閣府 超高度情報戦略部 婚姻支援室、

通称BBAのオペレーションルーム。


ここでは、同様の案件が

常に多数処理されている。

少子高齢化が著しく、

このままでは人口減少による国力低下、

国家滅亡の危機感を抱いた日本政府は


国家戦略としての婚姻支援、

子づくり支援策に本格的に乗り出した。

十数年の歳月を費やし、

超高性能自律型人工知能AI

『お見合い婆あ』を開発。


演算処理をスーパーコンピューターに負担させ、

日本人全員のパーソナルデータを食わせて、


男女の相性をマッチングするシミレーションを

長年に渡りひたすら繰り返して来た。


そしてようやく実戦の目途が立ち、

婚姻支援室『BBA』が創設されるに至る。

コードネーム『大阪のおばちゃん』は

『BBA』の秘密工作員であり、


現在、結婚相手が見つけられない男女を

極秘裏に支援するというのが彼女の任務である。

対象候補者の人物特定出来ました

大山辰夫、三十歳、

公務員、〇〇大卒、

身長170cm、体重68㎏、

顔面偏差値51……

人物照合のデータを確認する氷山冴子。


当然、日本国に登録されている

大山辰夫という人物の

全データが管理されているため、

精度としてはこの上なく高い。

まぁ、極めて普通、というところだな……

現在、相手候補の女性、

検索ヒット数 513,689 件……

まだまだ、途方もない数だな……


大阪のおばちゃん、

有益情報を引き出してくれ……

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