ラブ=ディスコミュニケーション
前のエピソードへ「閑話休題」
文字数 2,080文字
大学生の俺は
虚しく、空っぽの人生を送っていた
今何かやりたいことがある訳でもなく、
将来に何か目標がある訳でもない
自分と似たような空っぽの仲間達と
中身も頭も空っぽの女達と
悦楽にまみれた刹那的な日々を
無為に消費して過ごして行くだけ
そんな生き方、そんな生活、
そんな毎日だった……
ヤリ友の女が、
合コンに女子大の同級生を連れて来た
私、こんなの聞いてません
帰りますっ!
馬鹿女が合コンだとは言わずに
騙して連れて来たらしく
さくらという女は来るや否や
いきなり帰ろうとしている
一見、THE地味みたいな女だが、
実は超いい女で間違いない
俺の本能がそう言っている
まぁまぁ、そう言わずにさぁ、
こういうのも社会勉強だから
俺は彼女の腕を掴んで、
無理矢理、席に着かせようする
触れた瞬間、
電気でも流れたかのような感覚があったが
まぁ、おそらくは静電気だろう
たまにはこういうとこで
羽目外さないとぉ
口では嫌がっているが
俺の腕を振り払おうとはしない
やはりこの女は
強引な押しに弱いタイプと見た
おいおいおい、
なんだよ、さくらちゃん
そう来たかあ……
そういうので、爪痕残す感じかあ
さくらっち、
そんなネタ仕込んで来るなんて
やる気あんじゃんっ!
彼女の目に溜まっていた涙が
頬を伝って零れ落ちる
……そんな、そんな、
笑えるような話じゃないです
その涙に一瞬怯んだ俺が
掴んだ手の力を緩めた隙に
彼女は走って逃げて行った
まぁ、いい、
逃がしはしないよ、悪いけど……
うーん、
やっぱりダメだったかぁ
それから、ヤリ友の女から
さくらの連絡先やらを聞き出した俺は
猛烈なアプローチを開始した
これまで、
女なんか性欲の捌け口ぐらいにしか
思っていなかった俺が
たった一人の女に
熱くムキになっちまってる
くだらねえ目的過ぎて
自分でも笑っちまうが
それでも何か目的があることに
妙な充実感すら覚えちまう
この間は、
笑ったりして悪かったね……
ああいう飲み会の席だったからさあ
俺さぁ、
そういう話しに詳しい人とか
知ってるから
中々、連絡が取れないから
女子大の前まで押し掛けて
無理矢理に彼女を捉まえた
やっぱりこの女
強引な押しに弱い
申し訳ないけど、
俺は遊び人で悪い男だから
こういう世間知らずの
箱入りお嬢様を騙すのなんて
造作も無いこと
善人のフリをして
親身になって話を聞いてやって
それなりのことを言ってやれば
すぐ騙されてくれる
何度か、直接会って
話をするようになって分かったのは
まぁまぁ、本気で
オカルト信じてるヤバい女だってことか
今も俺は、夜の公園のベンチに
彼女と二人で座って
話を聞いてやっている
そろそろ今夜あたり
お持ち帰りでも出来そうだと
踏んでいるんだが……
彼女のいつもの
辛い身の上話が終わると
そのチャンスはやって来た
俺は彼女の頬に右手を添えた
やっぱりこんなオカルト女、
ちょろいもんだぜ
そのまま、
俺は唇を奪う
全身に電気が流れて
感電したみたいだ
彼女の目からはまた
涙が頬を伝って零れ落ちる
なんだか、
懐かしい人に
会ったような気がして……
彼女に触れ、その言葉を聞いたら
何故だかよく分からないが、
胸がかきむしられるように苦しい
涙を拭うこの女が、
この上なく愛おしく思えて来る
このままここで
押し倒してしまいたい
魂が、心が、本能が、体が、
目の前に居るこの女を欲している
抱きたくて、抱きたくて、
仕方がない
……だが、
俺の体が動くことは無い
――この女を抱いてはいけない
誰かが何処かから
ブレーキを掛けているような……
そうとしか思えない
……
だが、俺は
それに従わなくてはならない、
何故かそう思っている
心の刃を、気持ちを押し殺して、
俺は喉から声を捻り出す
……今日は、もう随分と
遅くなってしまったから、
そろそろ帰ろうか
おおよそ、
普段の行いからは想像もつかない
肉食生活の性獣には似つかわしくない
まるで紳士のような対応
数日後、俺は
渋谷で彼女と歩いていたところに
突っ込んで来たトラックに
跳ねられて死ぬ
自分が何者で、
何故ここに居たのかを
赤く光る目をしたトラック運転手
そこに居る悪霊は、俺の魂が、
道連れとして、霊界に連れて逝く
霊感が強いさくらは、
身近な者と同じ魂を持つ俺に
何かを感じ取っていたのか……
もう、お前と、
契りを交わすことは出来ないのだな……
★いいね!
ファンレターを書く
次のエピソードへ JCさくら
作品お気に入り
登場人物はありません