校門前で突然に

文字数 927文字

「俺と1ヶ月だけ付き合ってください!」
 東京の寒さも増し始めた1月の事だった。本田(ほんだ)詩織(しおり)は下校際、レンガ造りの校門前で見知らぬ大学生風の男に告白された。

――女子高の前で怪しすぎる。

 人違いだと言って、親友と一緒に怯えて逃げた。
 次の日も、また次の日も告白された。周りで見ている生徒達の囁きも、大きくなっていった。
「動画配信用のドッキリでも撮ってるんじゃない?」
 昼休み一緒にお弁当を食べていた親友の神結(かみゆい)心亜(ここあ)が、最近SNSで流行っている30秒動画の話をした。
「なんでいつも私? スカウトなら分かるけど」
「分かるんかい!」
「花のJKですから」
 詩織が心亜といつもと変わらぬ漫才みたいな会話をしていると、他の友達も加ってきて、あの男の話題で笑い合った。まさか、その日も待っているとは思わずに。
 4日目ともなると路上ライブのように、所々遠巻きにギャラリーが出来ていた。さすがに校門から離れた場所で告白された。男に話しかけようとした心亜の腕を引っ張って逃げた。
 5日目は先生に追いかけられながら、吉元(よしもと)新喜劇のような告白となった。その隙にさっさと逃げた。
 休日を挟んだ放課後。ギャラリーが居たので警戒して門へ近づいた。たがそこに、あの男の姿はかった。次の日も、また次の日も。日に日にギャラリーは減っていった。
 周りが興味を失うにつれ、詩織は気になってしまっていた。

――なんだったんだろう。どうしたのかな。本気じゃなかったのかな。

「付き合ってみれば良かったのに。見た目は悪くないんだし」
 心亜がバックハグをしながら詩織に囁いた。 
「意味わかんない。もうターゲット変えたんでしょ。関係ないよ」
 詩織はハグを剥がしながら、興味のないフリをした。

 男が来なくなって5日目の放課後。何やら校門の方が騒がしかった。詩織と心亜は、まさかと顔を見合わせた。校門を出ると目の前の車道の向かい側に車が止まっていた。その車から降りた男が、こちらに向かって手を振った。それは紛れもない、あの大学生風の男だった。手を振る男に、心亜が腕を振り返した。
「ちょっと、やめてよ!」
 慌てて止めさせようとした詩織の腕に組み付いた心亜は「いいから、いいから」と、そのまま車に向かって詩織を引っ張っていった。
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