真実の向こう

文字数 834文字

「だから期間限定だったんだね。忘れちゃうんだから詩織の事も考えて、距離を保つために嘘をついてたんだと思う。だけどね。手術を受けたいって言ったんだって。詩織と付き合い始めてからだよ。ずっと一緒にいたいって思ったんじゃないかな。1か月で忘れるくらいなら、手術で良くなる方に賭けたいと思ったんだよ。手術は5日前に終わったって」
 詩織には、心亜の声が水の中で聞いているみたいにボヤけていた。

――瑛太に会いたい。今すぐ瑛太に会いたい。

 教えられた住所には、ベネチアンハイムと書かれた3階建ての家があった。詩織の背中に心亜が手を添えた。詩織はゆっくりと歩き出した。
 瑛太の部屋は2階だった。詩織は脈打つ心臓を抑えるように、1歩づつ階段を踏みしめていった。踊り場を曲がると、ケイタイを見ながら降りてくる人がいた。

――瑛太。

 一瞬立ち止まると瑛太が顔を上げた。詩織と目が合うと「こんばんは」と笑顔を向けて横を通り抜けて行った。

――全部終わったんだ。

 全身の力が抜けて座り込みそうになった。
「え!」
 聞こえた声に詩織が振り向くと、踊り場で振り向いている瑛太と目が合った。瑛太はケイタイと詩織の顔を交互に見ている。ケイタイの画面にはシーランドで撮った詩織が写っていた。

 瑛太はケイタイの画面をスライドさせた。手術後に気が付いた自分と女の子の写真を改めて見ていた。背景からして同じ場所で撮ったとしか思えない写真。そこに写っている女の子は誰なのか。どうして撮ったのか。そう思っていた女の子が目の前に現れた。
 踊り場で振り返ると、女の子も振り返った。やっぱり自分を知っているのか? 瑛太はケイタイの写真と、その女の子を見比べた。

――やっぱり可愛い。

 すると女の子が瑛太に声をかけた。
 
「あ、あの!」
 詩織は勇気を振り絞って瑛太に声をかけた。思った以上に大きな声が出たが気にはしない。

――どうせ終わった恋なら。これで終わってしまうなら。

「私と1ヶ月だけ、お付き合いしてもらえませんか!」


〈Fin〉
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