#15 〝いい仲間〟 中 ── 隔壁層内の33層分

文字数 1,922文字




 その後、ベックルズとメイジーがメモリースティックを解析する間、(くだん)メディア(媒体)の管理でひどい目に遭うこととなった。

 ベックルズ曰く、このメモリーは〝ヤバい〟代物…──そもそも存在してはならないものであり、俺たちがこれを手に入れたことはMA(統治機構)には絶対に勘付かれてはいけない。だからこのメディア(メモリースティック)の扱いは次のようになった。

 メモリーの内容は参照時にしかサンドボックスに展開(コピー)しないし、参照を終えたサンドボックスは完全に消去・初期化する。
 オリジナル(メモリースティック)はコネストーガの車内に保管し外部に持ち出さない。格納場所もベックルズのロッカーでなく、俺のデスクの〝鍵の掛かる〟引き出しの中。……メディアを引き出しから持ち出せるのは俺しかいない訳だが、俺はメディアを展開するサンドボックスを構築できない。だからメモリーの中身を見るときは俺がベックルズかメイジーにメディアを渡す、という手続きを経ることになる。合い鍵を渡しておく、というアイデア(思い付き)は拒否された。
 これがために俺は窮地に立たされることとなったのだが、それはこれから語る。

 ちなみに、仕込まれていた〝トロイの木馬〟はそのまま残された。万一〝メディアが俺たちの手から離れた際には中身は保護されるべきだろうから〟というのがベックルズの説明だったが、メイジーによれば〝とても解除できそうにないからです〟とのことだった。……多分、メイジーが本当のことを言ってるんだと思う。


 そうしてベックルズがメモリーの検討を始めて4日が経った。
 始めのうちこそリオンなんかは面白がって付き合ってくれたが──キングスリーの方は最初(はな)からそれ程の興味を示さなかった…──、3日目には、もう飽きたのか、姿を見せなくなった。

 これまでの成果は…──
 第3層と第2層の間の隔壁層に下りる、昇降口までの経路。
 昇降口から下……隔壁層内の33層分のMAP(地図情報)

 昇降口の封印の鍵は見つけられていない。だがヒントは見つけた。
 当該のMAPデータの中に、メッセージが隠されていたのだ。

〝〈()()()()〉は〝戻るべき場所〟じゃない。
  それは君にとっても同じハズだ。
  ……〈()()〉は──〟

 そのとき意味を推し量りかねていたベックルズの傍で、俺は、間違いなくこれがダニーからのメッセージだと確信した。

 現在まで(いま)のところMAPに経路のようなものは見つけられていない。
 メモリースティックの容量から推しても、もうこれ以上の情報が隠されているとは思えず、やはりこの〝33層分のMAP(地図情報)〟こそが、ダニーからのプレゼントなのだろう。


 この〝33層分のMAP〟を参照する術についてベックルズとメイジーの出した回答(こたえ)は、〝印刷する〟というものだった。
 結局、サンドボックスの外にデータを持ち出してしまえばMAからのアクセス対象となることを避けられないからで、〝アクセス可能なものは全てMAにとっての監査対象〟……そう考えるべきだ、というのがベックルズの主張だった。
 少々〝ナイーブ過ぎる〟のではと思わないでもないが、例の〝トロイの木馬〟が傍証だと言われれば言い返せない。確かに用心はするに越したことはない。
 だからMAPをデータリンクに取込んで仮想戦場に反映することを諦め、替わりに大昔の兵隊が携行したという古典的な〝紙媒体〟のアイテムを模すことにしたわけだった。(もっと)も、ただの紙ではもちろんない。特殊な積層合成繊維紙に印刷する。水に濡れたとしても(ふや)けず、プロテクトギアのグローブでめくっても簡単に裂けたりしないはずだ。

 専用のローカルプリンター(ネットワークを経由させず、サンドボックス内にプリンターのドライバーを組んで直接制御した)がコネストーガに持ち込まれた。……それが3日目、昨日のことだ。その日はサンドボックス内でのドライバーソフトの設定とプリンターの接続・調整で終わった。


 そうして4日目の今日、ついに印刷に入ることとなり、俺はベックルズと連れ立ってアーマリー(拠点)へと足を向けた。
 この数日は例のメモリースティックの管理があり、ずっとメイジーを含めた3人でアーマリーまでを往復していたのだが、この日はメイジーに『マクニールの店(ファクトリー)』に出向く用があったので、朝はベックルズと2人きりとなった。
 そして道すがらのスタンド(露店)で昼食分のスコーンを調達したのだったが……この時に俺は〝創造主の悪意〟をハッキリと感じることになる。

 同じスタンドの隣でコーヒーとスコーンを受け取った人物が視界に入ったときに、なぜだか俺は(──しなければよかったのだが……)動揺した。だから相手も気付いてしまった。

 コーヒーとスコーンの包みを受け取っていたのは、カーリー・ワトソンだったのだ……。
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