#12 君なら信頼できる 中 ── 俺はそれを信じることにした

文字数 2,066文字

 が…──、
「取り敢えず、あの〝お友だち(ダニー)〟のことは置いといたげる」
 そう言いしなの、ベックルズの振り見遣った目が、スッと細まった。
「……けど、お友だちと会って話せて、それでその理由が納得のいくものじゃなかったら、そのときはあたしが裁きを下す…──」
 やはり〝一筋縄〟ではいかない女性だ。
「それでいいなら、パーティーを組んであげるわ」
 俺は黙って肯いた。
 もとより言われるまでもなく、ダニーの話如何(いかん)では、彼女の手を煩わせることなく俺が始末を付ける所存だ。でなければレスターやターンブルに顔向けができない。
 そんな俺に値踏みするような目線を向けていたベックルズは、やがてその視線を外して背中を向いた。
 どうやら俺のオファーは受け入れられたらしかった。



 翌日、午前中のトレーニングの後、シャワーを浴び終えたタイミングでハンドセット(モバイル端末)の呼び出し音が鳴った。
 それはメイジー・セヴァリーからで、ひょっとしたら()()んじゃないかと思っていた矢先のことだった。
「もしもし……ジェイク?」
 開口一番からもう、切羽詰まった……というより〝テンパった〟ときの彼女の語調なのが判った。
「ああ…──」 俺のその応答の声に被さるように、彼女の早口が重なる。
「──…いまアーマリーのハンガーに居るんだけどベックルズが来ててね。データリンクへ接続権限のコードを求められてるの」
 機先を制された形になり、思わず通話機越しに身構えてしまったが、そんな俺の表情が見えてる(想像できている)のだろうか……。メイジーの声は〝余裕がない〟なら〝ない〟なりに、相手にも余裕を与えないという戦術らしい。
「……どういうことなのか説明してもらえるかしら?」
「あの……」
 そのフレーズを聞き終えたときにはもう、俺は通話での説明を諦めていた。
「いまからそっちに行くから、待っててくれないか」
 俺はそう言って通話を切ると、昨日のうちにメイジーにベックルズの加入のことを知らせておかなかったのが拙かったか、と内心で溜息を吐く。
 クーラー(冷蔵庫)からゼリー飲料を取り出して喉に流し込み、クローゼットを開けた。


 30分後…──。
 俺はアーマリーのハンガーで、事態を呑み込めずいきり立つメイジーと、この状況にいかにも面倒そうな表情(かお)をしているベックルズの2人に迎えられた。どこで聞きつけたのかリオンの顔もあった──…あとで聞いたが、メイジーから通話で呼び付けられたらしい。
 それは置き、先ずメイジーに〝ベックルズはいったいどういう立場でパーティー(分隊)のデータリンクに接続させろと言うのか〟……そこのところの説明を求められ、俺がベックルズが新たにパーティーに加わると伝えると、彼女は固まってしまった。
 それが終わると、ようやくベックルズの手番で、彼女は──メイジーに自分の口からパーティーを組むことになったことを伝えなかったらしい…──〝新たな仲間にどういう対応をすべきか〟混乱するメイジーにこう言い聞かせて場を収めてみせた。

〝よーやく自分の置かれた状況は理解できた?〟
〝話を聞くにさぁ、アンタすじは良いみたいだけど、周りの期待に応えられるほど経験は積んでないでしょお? アンタ以外はみんなB級だからねぇ〟

 あえてバカっぽく演じてみせることで、相手をバカにする。相手が本当にバカなら火に油を注ぐだけだが、メイジーはバカな娘じゃなかったから強張った顔でベックルズに向きながらその言を聞いた。

〝それでもアンタの仕事は評価できるから、切るに切れないらしいよ……〟
〝だからあたしに声が掛かっちゃったわけ……ホント、あーめーわく〟

 そこまでは気怠そうだったベックルズの口調が、表情と共にあらたまったと思う。

〝そんなわけだから、あたしの仕事の半分は、アンタが収集する情報を円滑に共有する橋渡し役……〟
〝あとの半分は、アンタがそれをできるようになるまでの指南役〟

 挑発的な目線がメイジーを見、ちょっと睨み合いとなったか。
 もともと気の強い部類じゃないメイジーが、このときは真っ直ぐに目線を返した。……だからだろうか。ベックルズは少し目を細めて話を進めるよう促したのだった。

〝アンタに()()が出来るようになれば、あたしはココから消えるんだから、ね、サッサと始めたほーがよくない?〟

 深呼吸をしたメイジーは、最後には居ずまいを正し、改めてベックルズに向き直って頷いたのだった。
 何とかその場は収まった。
 成り行きを傍で黙って見ていた俺に、どうやら収まったらしいな、とリオンが目で合図を寄越してきた。こいつはこいつなりに気が気でなかったのだろう。

 現在(いま)のところメイジーとベックルズ……2人の関係がどこに落ち着いてくれるのかは判らない。が、とにかく無事にパーティーが動き出してくれるくらいには収まって欲しいものだ、と俺は思う──。

 ともかく、こうして俺のパーティーはベックルズを加えたことで、大きく体裁を変えた。
 真価が発揮されれば第2層のアーマリーでも指折りのパーティーとなる。そういうポテンシャル(可能性)を秘めたパーティーのハズだ。

 俺はそれを信じることにした。
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