#13 最後のピースが見つかった 下 ── これが対価ではどうだろうね?

文字数 2,151文字



 その後は、事前に打ち合わせた通りにことは進んだ。
 EMPの効果が確認されるや、射点に待機していたレンジャーの狙撃で、オーガーの(センサー)が潰された。万が一、オーガーを仕留める前にリブート(再起動)された場合の備えだ。その間に俺とブッシュマンはそれぞれの〝獲物(オーガー)〟にエキシマレーザーのチャージをしつつ接近、〝止め(トドメ)〟を刺しに掛かる。
 制御中枢部に数発を叩き込んだ。
 自慢するわけじゃないが、鮮やかな手並みと言えるだろう。

「──ローグより全機、オーガーの停止を確認……ブッシュマン?」
 俺は状況を報告し、相方(ブッシュマン)の首尾を確認しようとそちらの方を見遣ろうとした。
『こっちもだ』 返答はすぐに返ってきた。『……機能の停止を確認』
 同時に、HUDの戦術マップから2体のオーガーのマーカー(標示)が消えた。
 誰かが吐いた浅い息をレシーバが拾った。それでようやくパーティーの緊張が和らいだ。
『いーい手際だ。……34秒? 新記録なんじゃねぇか?』
 誰に言うともなくリオンの陽気な声が訊いた。タイム競争に興味のない俺やキングスリー(ブッシュマン)は反応しない。
『──…アーネットの隊が20秒でやってる……オーガー1体だけどね』
 結局、ベックルズが応じた。
『1体? じゃ、俺たちの勝ちだろ』
 すっかりリラックスしたリオンの声がそう主張する。
『どっちにしてもやったのはオマエじゃないだろ?』
『なぁにぃ…──』
 ベックルズの冷水にもめげずにリオンが再び反応しかけたが、それを止める声が割り込んできた。
『──はい、そこまで‼ 早く坑道に行く!』
 メイジーの、ともすればヒステリックになりがちな、ピッチの高い声音だった。
『行ってポイント稼ぐ! そうじゃなきゃ利益が無くなっちゃう……このままじゃ、いいトコ〝収支トントン〟なんですからねっ!』

 その剣幕に、俺も含めパーティー全員が動き出す。
 パーティーの台所を預かる彼女は、もうすっかりビジネス(稼業)を仕切っていた。
 彼女の師のベックルズでさえ、こういったことには異を唱えられない。
 彼女(メイジー)がしっかりと収支に目を配ってくれるからこそ、俺たちのパーティーは必要な機材を揃え不足なく使えている。そのことを全員が理解して(しって)いるのだ。


 この後、俺たちは可能な限り迅速にその場を離れると、坑道内の急襲隊に合流し、追討戦に加わった。

 このミッションでの最終的な収支は、コネストーガのローンを払っても各自のチップカードにボーナスが加算されるくらいにはプラス(黒字)となった。
 戦利品を捌いた利益は大量に消費したドローンの補充で大部分が消えてしまったが、まあ、現状(いま)ではベックルズの操るドローンはパーティーの生命線になりつつあり、これは〝必要経費〟と言えた。
 何と言っても〝探知〟〝陽動〟〝牽制〟といった行動を、()()()、即時性と柔軟性をもって機動的にできるようになったのだ。そういったことを〝機材を現地に設置する〟ことで実現してきた俺たちからすれば、〝プロテクトギアをオートマトンの眼前に曝すことなく出来る〟のは、少しばかり機材の消費量が(かさ)んだとしても、安いものだ。

 ベックルズのドローンは、これまでの俺たちの戦術を完全にブレークスルーした。
 元々〝ギア使い〟の巧いメンバーが揃っていた。メイジーは経験不足もあって状況への即応は難しかったが、ドローンの基本動作のカスタマイズといったことは得意分野であり、ベックルズを能くサポートできた。そういう相乗効果で、現在(いま)俺たちのパーティーは、迅速な機動力と臨機応変な対応力において他の追随を許さない。
 ベックルズの加入が、間違いなく俺たちのパーティーにとって〝最後のピースが見つかった〟瞬間だったわけだ。



 俺たちがアーマリー(拠点)のパブで祝杯をあげていると、〝その男〟はテーブルに、そっと近付いて来た。
 最初に気付いたのはベックルズで、口許に寄せたジョッキ越しに不審の目を細めたのだが、そんな彼女の目線を追って、俺とリオンは〝その男〟の顔を見上げた。
 男はジョッキを片手に立っている。
 着古しの迷彩服が馴染んでいない。何故だか、トループスではないように思えた。

 男は周囲に気を配りつつ、()()()()()()言った。
「ずいぶんと景気のいいことじゃないかね?」
 語尾は疑問の形に上昇調だった。
 その男の不思議な(というより滑稽な)言い回しに、俺は咄嗟には何を言われたのか解からなかった。俺の表情に男は身を乗り出してきた。
「一杯ご馳走にならせてくれないかね?」
 相手のペースになって、ちょっと相手の言わんとすることを考えてしまった。だがすぐに、それは難しいことを言っているわけじゃないことに気付く。
 なんだ、ビール一杯を恵んでくれと言っているのか。
 俺が頷いて返そうとすると、男は続けた。
「もちろん、(ただ)というわけにはいかないね? だから──」
 男はポケットから何かを取り出した。
「これが対価ではどうだろうね?」
 男はそれを俺に放ると、テーブルの上のピッチャーに手を伸ばし、自分のジョッキに注いだ。そしてそれを一気に喉へと流し込む。それから軽くジョッキを掲げて頷くと、テーブルを離れていった。

 そんな背中にリオンが「おい」と声を投げたが、男はそれを無視し、足早にパブを出て行ってしまった。
 俺の手には、少々使い古されたメモリースティックが残された。
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