#09 〝英雄〟は要らない 下 ── 最初のミッションは、散々だった…──

文字数 2,167文字




 最初のミッションは、散々だった…──。

 当たり前だが、俺のような〝成りたて〟のリーダー資格者には〝本当の意味〟での自分のパーティー──4人の定数を満たした固定メンバー──は、まだないわけで、コミッションの提示するミッションに個別にエントリー(参加)するトループスら(面子)に渡りを付け、臨時にパーティーを組むところから始まる。
 そうやって何回かのミッションで、戦場での指揮能力だけでなく交渉とマネジメント能力も示すことで信頼を勝ち得なければならない。お互いがミッションを通して、実力や相性といったものを試し、探り合うのだ。
 ──〝本当の〟パーティーの契りは、そんなプロセスを経て結ばれる。

 それはまあ置き、俺たちは最初のミッションにF級~E級向けの低難易度ミッションを選んだ。膠着したロボット(自動機械)の支配領域の一つに侵入し、そこに配備された〝ドール〟と呼ばれる等身人型のオートマトン(自動攻撃兵器)を掃討する、というミッションだ。
 本来これは、俺やリオンのような手練れが参加するようなミッションじゃない。〝ドール〟に設定されているポイントは低く、実入りが悪すぎる。
 だが、()()リーダーの俺は、未だパーティーを探しているような新米のトループスをリクルートしなければならなかった──少なくともそう思っていた──…ので、こういうトライアウトミッションに参加したのだ。
 リオンも俺の〝メンバー集め〟についてきた。

 この最初のミッションでは、F級のポイントマン(前衛)と、同じくF級のバックアップマン(後衛)を引き受けたのだが、この前衛の〝ガキ〟には手を焼かされた。
 先ず話を聞いていない。はい、はい、と相づちはよく打つ……が、直面した状況が変化すれば自分の理屈を優先し、チームの段取りを無視して動き出す。ともかく直感を優先するのだ…──。

 ()()ときは接敵し後退してきた味方の先鋒(トループス)を俺たちのパーティーが〝最終防護射撃線〟から援護・収容する手筈だったのだが、コイツは後退中に脚をとられたプロテクトギアを見るやすぐさま持ち場を離れて飛び出した。そして起き上がろうとするその味方のギアに手を貸すと、レーザーガンを振り回して彼の後退を援護した。
 結果、味方ギアは防護線の内側に収容され、奴は1人で、殺到してきた〝ドール〟を4体斃している。
 まあ〝英雄的〟な行動だ。

 その代わり防護射撃線に綻びが生じ、それを繕うのに俺とリオンは奔走させられることとなった。同じく引き受けた新米のバックアップマン(後衛)は、いきなり〝バディ〟の片割れ(バックアップの対象)に引き摺られることとなって最終防護線の先に出るはめとなり、白兵距離に身を曝している。リオンの援護の下で俺が救い出さなければ、おそらく未帰還となっていたろう。

 ミッションの72時間が終わり〝コンコード(駅馬車)〟(※ 個別参加のトループスを戦闘領域まで運ぶ乗合形態の兵員輸送車)でアーマリー(拠点)に戻ると、俺は2人の新米をパブに誘って客観的な評価を伝えた。
 が、その言葉は〝英雄〟を演じた新米の方にはいっこうに届きはしなかった…──。

 チームで動く以上、それは〝一匹の獣〟であること、また、そうでなければならないことを俺なりの言葉で説いたのだ……。
 チームが獣として機能するには、それぞれが、それぞれの役割…──、
 目なら〝目〟、耳なら〝耳〟、牙なら〝牙〟……
 …──それぞれの機能に徹し、求められたことを完璧に果たして、しかもタイミングよく動かなければ、獣は〝獣としての真価〟を発揮できないということを。

 だが、どうもそれが〝ガキ〟にはわからないらしかった……。

「……〝ただ決め事に忠実に〟とぐずぐずしてたら、その間に仲間が死にます。あそこで助けに行かなければ、目の前の仲間はやられていたかもしれない! オレは、間違ったことをしたとは思いません」
「君が独断で持ち場を離れたことで、彼は難しい立場となって死にかけてる。その彼を救うのに俺たちは防護射撃線を崩すことになっ(た)…──」
「…──そういうときに臨機応変にカバーし合うためのチームじゃないですか」

 いっこうに響く様子のないレビューミーティング(反省会)に業を煮やしたのはリオンだった。

「もういい……」
 何とかしてチームというものを理解してもらおうと、パブのテーブルで苦闘している俺の横からリオンは割って入ると、もうすでに集中力を失いつつあった新米にぴしゃりと言った。
「……戦利品もって、消えろ」
 忌々しそうな表情(かお)を隠そうともしなかった。「──俺たちは〝頭の使える〟やつを探してる。度胸と直感と自己陶酔(自分の正義)で戦う〝英雄〟は要らない」
 言って、〝だな?〟と向けられた視線に、俺も肯いて返していた。
 若いトループスは唇を噛んだが、一つ首を振るとテーブルを離れていった。
 残されたもう一人に視線を向けられたリオンは、そいつにも冷厳だった。
「お前もいけ。俺たちに〝お前を育ててる〟時間はない」
 それで首を縦にした彼もまた、テーブルを離れていった。

「…………」
 さすがに疲れ、言葉なくノンアルコールのスパークリングワインを口に含んだ俺にも、リオンは手厳しかった。
「トライアウトミッションを戦ってる奴なんてこんなもんだ。もう少し考えた方がいいぞ」
 俺はワインに溶けた炭酸と共に苦いものを飲み下して応えた。
「ああ……」


 こんな感じで、最初のミッションは、散々だった…──。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み