文字数 757文字

 学歴も経験も無く、何一つ将来に希望が持てず、いつ自分が死ぬのか、そんなことばかり考えていた。就職氷河期を経験したとはいえ、それはたまたまそういう世代だっただけで、例え定職に就いていたとしても、そう長続きはしなかっただろう。学校を卒業して以来、新宿の歌舞伎町で深夜のアルバイトをして、そのうち故郷に帰る気になるか、運命的な仕事にでも巡り合ったならラッキー、くらいにしか思っていなかった。新宿の街には、よく一人で飲みに行った。そういう時間が必要だった。目の前を塞ぐ濃い霧のようなものは、時間が解決してくれると思っていた。でも、それは間違いだった。気付いた時には三十五歳になっていた。仕事なんて、就いて続けているうちに興味が湧くものだと言う人がいる。自分でそう思うのは勝手だが、他人も一緒だと思わないで欲しい。この世代を知らぬ者に、同情されるのはもっと嫌だ。
 新宿にある飲食店でのアルバイトの帰り道だった。駅に備え付けの求人フリーペーパーを、パラパラとめくっていた。ちょうどアルバイト先の店長に「やる気あんのか!」と怒鳴られたばかりだった。時給が高いとは言え、夕方から出勤して夜通し働き、朝帰りするような生活にうんざりしていた。あるページをたまたま開いた時、小さな枠で「遺跡の発掘」という文字を見つけた。服装自由、出勤日数自由、時給1100円以上、ロマンを追い求めて見ませんか? というキャッチフレーズ。『自由』という言葉に惹かれて求人誌を持ち帰った。二、三日は机の上に放って置いたが、次第に気になりだした。仕事そのものに興味を抱くことは、これまでに無いことだ。「天職」という言葉があるけれど、こういう衝動的な出会いなのかもしれない。それに『自由』というのがいい。時給は高くないが、やってみる価値がありそうな気がした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み