文字数 1,243文字

 翌日、「遺跡の発掘」の仕事に応募した。面接で話を聞くと、勤務する曜日も、時間も、回数も決められていない。完全フレックス制。自分の都合に合わせて、身一つで現地に集合するだけでよかった。その場で採用された。初めは平日の夜のアルバイトを継続しながら土曜、日曜だけ働くことにした。仕事がつまらなければすぐに辞めるつもりでいたが、思いの他自由気まま、体力が必要ではあるものの性に合った。時間に縛られず対人関係の煩わしさが無い。好都合だった。しばらくして夜のアルバイトを完全に辞めた。
 この日も、東京の西の果てまで電車で行き、駅で拾ってもらい現場に入った。作業服を着た監督と呼ばれる人から、大まかな作業工程を説明される。現地に着替える場所は無く、皆私服で作業をする。当然べったりと泥がつく。作業自体は単純だ。最初の一時間だけ、先輩作業員に掘り方のレクチャーを受ける。その後は各自がポイントを割り振られ、作業終了の合図があるまで黙々と掘り進める。掘った時に出る土や石は、簡易的に組み立てられたローラーで一定の場所に積まれる。そこがいっぱいになると、通称「ネコ」と呼ばれる一輪車に乗せて集積所に捨てに行く。捨てに行くと言っても、また元に埋め戻す場合もあるわけで、たいていは少し離れた河原のような場所に一時保管する。
 雨の日は基本的に休みになる。天気の良い日は、地元採用のおばちゃんたちが、コーヒーやら菓子やら手作りのものを差し入れてくれる。特にまだ若いテツヤは、おばちゃんたちに可愛がられた。難点を挙げれば、大抵の現場は遺跡の発掘というのは名ばかりで、単なる土木作業だった。土を掘り、大きな重い石を運ぶのは若いアルバイトの仕事だった。大学の連中は肉体労働をしたがらない。結局、醤油煎餅のような顔をしたおじさんや、アルバイトの若者が土木作業することで現場が成り立っている。世の中、不公平だなと思うことはある。けれども平等であることの方が、今ではくすぐったいと思えてしまう。
 初めは、きっと文化的に貴重で、大学の考古学に関係する仕事なのだと思っていた。それが現場に来てみると、○○工業、○○土木といった具合である。金髪のお兄ちゃんがスコップとツルハシを持って現れたのを見た時、ああ、これは土木関係の仕事なのだと妙に納得してしまった。大抵は市や県からの公共事業として、業者が入札で仕事を請負う。新しい道路を作るためだったり、土地開発の認可を得るための調査だったりする。遺跡とは全く関係の無い理由で掘られることになる。しかし、極まれに貝塚や住居跡などが見つかると、にわかに周りが騒がしくなる。まだ出くわしたことが無いが、古墳などが発見された時は、現場が○○工業から○○大学に変更になる。現地で掘っているアルバイトがそのまま継続して掘り続ける場合もあるし、場合によっては、そっくりそのまま他人に引き継がれる。それらの判断は、その遺跡の重要度、希少度による。つまり重要であればある程、移動を強いられることになる。
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