#03-007「アキの消失」

文字数 1,047文字

 アキが消滅(ロスト)したって!?

 コンソールを操作しているアヤコの後ろで、ヒキが声を上げた。驚いて振り返ったアヤコは、見たことがないほど険しい表情をしているヒキを目にする。

「アヤコ、現場を」
「無理です。局所ネットに妨害が入っていてアクセスできません」
「カタギリさんがサポート入ってるんだぞ。そんなことがあるわけ――」
「いえ、事実です」

 アヤコの冷徹かつ毅然とした否定に、ヒキは黙り込んだ。

「これ以上は私たちも標的にされます。最悪焼き切られますよ!」

 アヤコはずらりと並んだモニタを順番に睨みつけ、小さく舌打ちした。それらは次々とブラックアウトしていっていた。それを止める(すべ)は、アヤコにもヒキにもない。ただ茫然と眺めるのみだ。

「アカリ、カタギリさん、どういう状況なんですか」
『ごめんヒキ、今ちょっと無理』

 アカリから切羽詰まった応答がある。カタギリからは一言もなしだ。アヤコは緊張した声で状況を整理する。

「ミキも動くに動けないようです。アキは……やはり反応が完全に消えています」
「それは見ればわかる。問題は何が起きているかだ」
「おそらくですが――」

 アヤコは溜息をつくと、椅子に全身の体重を預けて足と腕を組んだ。もう自分には何もできることがないという意思表示だ。

「エメレンティアナが展開した局所(ローカル)ネットワークに捕縛されたのかと思います」
「一個人が局所ネットを? そんなことが可能なのか」

 驚くヒキに、アヤコは「可能性の話ですが」と前置きして続ける。

「エメレンティアナは、最高峰の技術を積み込まれた機械化人間(マキナドール)だと言われています。環地球軍事衛星群(グラディウス・リング)への単独介入も可能だと、先ほどアサクラさんから頂いたデータにはありましたね」
「量子コンピュータでも搭載してるというのか?」
「本体にはもちろんそこまでの演算装置は積み込めていないでしょう」

 アヤコはデスクの引き出しの中から眼鏡を取り出すと、おもむろに着けた。室内の照明が半減し、代わりに眼鏡のレンズ部分が淡く輝く。ヒキは予告なく行われたその行為に驚くでもなく、先を促した。

「ですが、エメレンティアナは何らかの方法で同等以上の演算能力を叩き出すのでしょう」
「無茶苦茶だ」

 そんなものが十一年間も行方不明だったなんて。その期間活動を停止していたわけでもあるまい。となれば、日本国中……いや、日本国と接点のあるネットワークは全て――ヒキは己の額にジワリと汗を感じた。

「奴は、エメレンティアナは……この国で何をしていたんだ?」

 ヒキは唾を飲み込みつつ、呻くようにそう問うた。
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登場人物紹介

アキ。本作の主人公。

ほぼ全身を義体化した、機械化人間(マキナドール)。近接戦闘を得意とする。無茶と無鉄砲を足して二で割ったような性格。

ミキ。

アキの相棒。こちらも機械化人間(マキナドール)だが、ミキが得意とするのは中長距離での砲撃・銃撃戦闘。また、超重装甲。

アキのサポート役に回ることが多いが、単騎でのミッションもしばしばある。

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