鐘の音

文字数 316文字

ある時ふと、あの鐘の音をずっと聞いていないことに気が付いた
朝の透き通った空気に映える音だったが
今では全く思い出せず
懐かしむことすら難しくなってしまった
あの鐘はどこへ行ってしまったのだろう
あるいは私が遠くへ来てしまったのか
初めてあの音を聞いたのは理科室の一番前の廊下側の席
今でもぼんやりと思い出せる
といっても、深酒して酔っぱらった時の記憶と大差ないほどのものだが
あんなに愛おしかった鐘の音
やや甘ったるく響くその音は
いつだって聞いていたかったはずだが
この街に向かう新幹線の速度には追い付けず
私の体から剥がれ落ちてしまったのだろうか
あるいは繫華街の喧騒に紛れて搔き消えてしまったのだろうか
たとえ故郷に戻ってもきっと思い出すことはないだろう
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